電気自動車(EV)シフトを前に自動車燃料を巡る動きが急展開している。石油元売り国内最大手のENEOS(エネオス)は25日、和歌山製油所(和歌山県有田市)を2023年10月を目途に停止し、その後、閉鎖すると発表した。EVシフトによる燃料油の需要減などを見込んで原油処理能力を削減する。一方で、政府は同日、高騰しているガソリン価格の上昇を抑制するため「燃料油価格激変緩和対策事業」を初めて発動、元売り事業者が27日に改定する2月2日までの卸価格を抑制する原資として1㍑当たり3.4円の補助金を支給する。
エネオスが閉鎖する和歌山製油所の原油処理能力は日産12万7500 バレル 。同社は東燃ゼネラル石油との経営統合後、製油所の稼働を停止するなど、生産能力の削減を進めてきた。人口減少や脱炭素化に向けた動き、自動車メーカーのEVシフトなどの構造的な要因によって「想定よりも内需の減少ペースが早まるリスクがある」(大田勝幸社長)ことから和歌山製油所の閉鎖を決めた。従業員約450人は他の事業所に配置転換し、雇用は維持する。
和歌山製油所は1941年に操業したエネオスグループの製油所の中で最も古いこともあって生産性が低い。立地的にも他の製油所がカバーすることで国内の安定供給体制を維持できると判断した。跡地の利用については今後検討する。
同社では、和歌山製油所を閉鎖することで、ターゲットとする稼働率80%台を達成できる見通し。ただ、ガソリン価格が上昇していることもあって石油需要がさらに落ち込む可能性がある。このため、需要に応じてさらなる原油処理能力の削減も検討する。
EVシフトによってガソリン需要の縮小が見込まれる一方で、ガソリン価格が上昇する中、政府は燃料油価格激変緩和対策事業を発動。資源エネルギー庁によると24日時点のレギュラーガソリンの店頭での全国平均価格は170.2円となり、燃料油価格激変緩和対策事業の発動要件を満たした。萩生田光一経済産業相は同日の閣議後会見で「石油製品の価格には地域差があるが、それぞれの地域で急激な値上がりを抑制することが可能になる」と述べ、高騰するガソリン価格を抑えることに期待を示した。
初回は発動要件の170円を超えた0.2円の差額に加え、先々週と先週における月曜から金曜の原油相場の平均価格の上昇幅3.2円を合わせた額を、元売りや輸入商社など29社に支給する。
同事業はガソリン価格の急激な値上がりを抑えるための緊急的、時限的な措置で、4週ごとに基準価格は1円ずつ繰り上がる。
全国の給油所で政府補助が反映されたガソリンが入れ替わるまでには1~2週間程度かかる見通し。政府はサービスステーションに対する聞き取り調査で、周辺と異なる値付けをする給油所があれば現地調査する。加えて、国民への広報活動も拡充し、小売価格の値下げではなく、急激な値上げを回避するという事業の目的をアピールしていく方針。
同事業は3月末までの時限的な措置。北半球で冬季を乗り越えれば原油需要がひと段落するとの見方も出ているが、国際情勢の悪化などにより相場価格は今後も見通しにくい状況が続くとみられる。萩生田経産相は「さまざまなシミュレーションをしていく」とし、来年度以降も高騰が続くと見込まれる場合への対応などを引き続き検討していく考えだ。
※日刊自動車新聞2022年(令和4年)1月26日号より