ロシアがウクライナへ軍事侵攻したことで、自動車関連企業に影響への警戒感が広がっている。世界3位の産油国であるロシアからの原油供給が滞ることへの懸念から原油価格の国際的な指標であるWTI先物価格は、7年7カ月ぶりに1バレル=100㌦台に上昇。生産拠点で使用するエネルギー価格の上昇は自動車メーカー、部品・素材メーカーの大きな負担となる。加えて、電気自動車(EV)シフトで価格が高騰していたニッケルのほか、アルミニウムもロシアが主要生産国なため、供給不安や価格上昇が懸念されている。
住友電装は現在、ウクライナで欧州自動車メーカー向けワイヤーハーネスの生産拠点の操業を停止している。従業員の安否確認を進めながら、代替生産を含めて今後の対策を納入先と協議しているという。ただ、ウクライナに進出している日系サプライヤーは多くはないことから、日本の自動車産業への直接的な影響は限定的と見られる。
ロシアに進出している日系の自動車メーカーやサプライヤーは現在、影響を受けていない。トヨタ自動車やマツダなどの日系自動車メーカーのロシアの工場も通常稼働している。ブリヂストンは地産地消していることから通常稼働で、横浜ゴムも現時点では影響はないとしている。トランスミッションを手がけるジヤトコのロシアにある駐在員事務所2カ所は通常稼働している。今後「給与の送金などに問題が生じて生活できなくなる可能性も考えられるため、情勢を注意深く見ていく」(広報部)としている。
ウクライナ危機で、日系自動車関連企業が懸念しているのは事業環境の悪化だ。欧米がロシアに対する厳しい経済制裁を断行すると、価格上昇を含めてサプライチェーンに影響が及ぶ可能性がある。
経済制裁によってロシアから石油と天然ガスの供給が長期にわたって途絶える可能性があることからエネルギー価格の上昇は避けられない。ガソリンや軽油価格の上昇だけでなく、生産拠点で使用するコストが大きな負担となる。物流コストも上昇する見通し。
また、世界的な電動車シフトによってリチウムイオン電池に使用する素材の価格が上昇していたが、ウクライナ危機で、とくにニッケル価格が急騰している。ロンドン金属取引所(LME)のニッケル相場は1㌧当たり2万5千㌦(約287万円)と、10年ぶりの高値水準。欧米の経済制裁でニッケル主要生産国のロシアからの供給量が制限されれば、価格上昇だけでなく、EV用リチウムイオン電池の生産に影響が及ぶ可能性がある。アルミも世界シェア6%を持つロシアのルサールに対する制裁を想定、13年ぶりの高値水準の相場となっている。
一方、欧米の経済制裁によって今後、ロシア国内にある生産拠点に影響が生じる可能性がある。ブリヂストンは「サプライチェーン上で今後、影響を受ける可能性がある」(広報)としている。ロシア域外から調達している部品や材料が手に入らなくなるリスクが高まっている。ロシア向けに半導体の輸出規制が実施される見通しで、自動車生産に影響が及ぶ。
※日刊自動車新聞2022年(令和4年)2月26日号より