原材料や原油の価格高騰が止まらない。電池材料であるニッケルや自動車用触媒に使用されるパラジウムの国際指標は、主要生産国であるロシアからの供給不安によって過去最高値を更新。原油価格は米国、英国がロシアからの原油輸入を停止する方針を打ち出したことで、さらに上昇する見通しだ。ロシアによるウクライナ侵攻前から上昇基調にあった原材料価格のさらなる上昇は、自動車メーカーの利益を一段と圧迫することになる。業績への影響は避けられそうになく、日本メーカーが「最後の手段」(日産自動車のアシュワニ・グプタ最高執行責任者)と慎重な車両価格への転嫁の動きにも注目が集まる。
世界の非鉄金属取引の中心となっている英ロンドン金属取引所(LME)では8日、ニッケルの3カ月先物価格が1㌧当たり10万㌦を超えた。前日に5万5千㌦をつけて約14年10カ月ぶりに史上最高値を更新したが、さらに2倍以上の水準に高騰。過去にないレベルの急激な相場上昇に、LMEは取引の一時停止に踏み切った。
ニッケルは電気自動車(EV)用電池の正極に使用する材料の一つで、EVの販売台数拡大に加え、よりコストの高いコバルトの代替品として使用される割合が高まっている。ニッケル価格はもともと上昇傾向にあったが、世界の約1割を供給するロシアへの経済制裁が強まったことで価格が異常に高まった。
ニッケル以上にロシアへの依存度が高いのがパラジウムだ。パラジウムはロジウムやプラチナとともに自動車用触媒に使用され、ロシアが世界全体の供給量の4割を占めている。昨年後半には自動車メーカーの相次ぐ減産で相場は一服していたが、ウクライナ情勢の悪化で再び上昇。ニューヨーク先物市場では約10カ月ぶりに過去最高値を更新した。半導体不足などによるサプライチェーンの混乱で在庫を積み増していたため、足元で大きな影響は出ていないものの、事態が長引けば自動車メーカーの生産や業績に影響する可能性が高い。
原油価格も高騰を続けている。ニューヨーク原油市場では8日、原油先物価格の国際的な指標であるWTIが、一時1 バレル (約159㍑)=129㌦台をつけた。自動車メーカーの2021年4~12月決算は、原材料や物流費の高騰を、車両の供給不足に起因する販促費の圧縮効果でカバーして堅調だった。しかし、資材やエネルギー価格の異常な上昇を吸収しきれなくなる恐れは高い。
今後の動きで注目されるのは車両価格への転嫁だ。国内ではインポーターが段階的に値上げを進めているが、日本メーカーは消費者が値上げに敏感だとして国内での価格転嫁に踏み切っていない。
モデルチェンジを伴わない既存モデルの値上げは、大型車メーカーが原材料高で08年に一斉に価格改定したが、乗用車では第一次石油ショック後の1974年以降、久しく行われてこなかった。しかし、急激な資材費の高騰は自助努力ではカバーしきれないレベルに達しているとみられ、今後、〝最終手段〟に踏み切るメーカーが出てきても不思議ではない状況だ。
(水鳥 友哉)
※日刊自動車新聞2022年(令和4年)3月10日号より