石油元売りが電気自動車(EV)シフトへの対応を本格化している。ハイブリッドカー(HV)を含む低燃費車の普及や、今後見込まれるEV市場の拡大などで、燃料油の需要はさらに減少する見込み。出光興産は燃料油の引取契約を結んでいる西部石油を子会社化して、山口製油所の精製機能を2024年3月に停止することを決定、石油精製能力を削減して全体の稼働率アップを図る。エネオスはサービスステーション(SS)を含めて国内にEVの急速充電設備の設置を本格化する。また、既存の内燃機関やSSの給油設備をそのまま活用できる合成燃料の実用化に向けた取り組みも進む。各社ともEV時代の生き残り策を模索している。
出光興産が子会社化して石油の精製機能を24年3月に停止する山口製油所の生産能力は日産12万 バレル で、出光興産グループ全体の1割を占める。HVをはじめとする低燃費車の普及で、国内のガソリン需要は低迷しており、出光興産グループの製油所の稼働率も低下していた。「世界的な脱炭素の潮流を受けて国内の石油製品需要の減少スピードは従前の予想よりも早まっている」(丹生谷晋出光興産副社長)ことから生産能力の削減を決めた。
出光興産によるとさらに30年までにグループ内の石油精製能力が日産30万 バレル 余剰になると試算しており、山口製油所以外でも能力削減を検討していく方針だ。
国内の製油所ではエネオスが大阪製油所を20年に停止したほか、根岸製油所の精製能力を削減し、和歌山製油所の閉鎖も決めている。国内の石油需要の低迷で、石油元売りの一部は海外への製品を輸出しているものの、長期的には採算悪化が見込まれることから生産能力の削減による固定費削減に踏み出している。
一方で、EVシフトを見込んだ対応にも乗り出している。エネオスはEVの普及をにらみ、NECから全国4600カ所のEV充電器の運営権を買収した。また、EVの急速充電器ネットワークの整備を加速する。25年度までに国内に1千基以上、30年度には最大1万基を設置する計画だ。
EVシフトへの対応に加え、現在の内燃機関や燃料供給インフラを継続して使用できる水素と二酸化炭素から生成する合成燃料などの次世代エネルギーの実用化に向けた取り組みを加速する。出光興産は山口製油所の精製機能停止後、次世代エネルギーとして期待されている水素やアンモニアの受け入れ基地として活用することも検討する。
コスモ石油はアブダビ国営石油と、既存のアンモニア製造設備での製造時に排出される二酸化炭素を分離・回収して地層に貯留することで製造するブルーアンモニアの売買契約を締結した。将来の脱化石燃料を見込んで、水素やアンモニアなどの脱炭素事業を強化する。
二酸化炭素排出量を低減しながら既存のインフラやエンジンを活用できるバイオ燃料の実用化も進む。ユーグレナは使用済み食用油と微細藻類ユーグレナ(ミドリムシ)を原料とするバイオディーゼル燃料「サステオ」の一般販売を名古屋市のSSで開始した。軽油にユーグレナを20%混合したディーゼル燃料で、25年までにバイオ燃料の大規模な生産と商業化に向けた体制を整備する計画だ。
これら次世代燃料の最大の課題がコストだ。ユーグレナが販売するサステオの価格は1㍑当たり300円と、現在、高騰している軽油の価格の倍以上だ。合成燃料の小売価格も現在の技術レベルでは1㍑当たり700円程度になるという。
EV市場の拡大や、電動車比率の向上による低燃費車のさらなる普及で、今後も燃料油需要の低迷は避けられない見通し。石油元売り各社は、構想改革を推進して、EV時代の生き残り策を手探りで模索している状況だ。
※日刊自動車新聞2022年(令和4年)6月16日号より