車載ディスプレーやヘッドアップディスプレー(HUD)といった乗員に情報を伝達するHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)が進化している。自動車の電動化やコネクテッド技術、先進運転支援技術などによってドライバーへ伝達する情報が増え、ディスプレーなどのHMIが車と人をつなげる重要な役割を持つためだ。簡素化した先進的なコックピットデザインを演出するのにも活用されており、日本の自動車メーカーも量産車へのインストルメントパネルの液晶化を進めている。HMI関連技術の進化と市場規模の拡大が加速している。
自動車メーカー各社が投入している新型車で目立つのが大型車載ディスプレーだ。メルセデス・ベンツはEV
のフラッグシップモデル「EQS」に全幅141㌢㍍、ディスプレー面積が約2430平方㌢㍍の「ハイパースクリーン」を採用した。インパネを含むダッシュボード部分に3つのディスプレーをシームレスに設置、車両に関する情報やナビゲーションの表示、インフォテインメントシステムなどをタッチ操作できる。
BMWは後席乗員向けに8Kの解像度を採用した32対9の31㌅(約78㌢㍍)パノラマディスプレー「BMWシアタースクリーン」を開発した。5Gモバイル通信にも対応しており、自動運転車向けに車室内をリビング化することも視野に入れている。
車載ディスプレーの大型化は電気自動車(EV)専業のテスラが先行した。テスラ車にはタブレット端末のような大きなディスプレーに、コックピットのスイッチ類や車両情報、カーナビなどを統合、シンプルな内装としている。欧米自動車メーカーもディスプレーの大型化やインパネの液晶化で追随した。
車載ディスプレーの活用で遅れていた日本の自動車メーカーもここにきてインパネの液晶化や大型ディスプレーの採用を本格化してきた。ホンダは初の量産型EV「ホンダe」のインパネに5つのディスプレーを配置した。日産自動車は小型車「オーラ」にフルカラー液晶モニターを採用した。
ディスプレーメーカーは車載ディスプレーの大型化や高機能化ニーズへの対応を本格化している。ジャパンディスプレイ(JDI)は新開発の有機EL「イーリープ」を採用したディスプレーの技術を確立した。大型化をはじめ、デザインの自由度が高いことが特徴で、ドライバーに伝達する情報量が増えることが見込まれるEVや自動運転車での実用化を見込む。
ディスプレーの大画面化に伴い助手席側の映像によってドライバーの集中力が低下することが懸念される。この対応としてJDIは「スイッチャブルプライバシー技術」を開発した。助手席側モニターをスイッチング制御でドライバー席から見えないようにできる。ディスプレーの大型化に伴う懸念にも対応することで、需要を開拓していく構えだ。
ドライバーに視線移動なく情報を伝達できるHUD(ヘッドアップディスプレー)の需要も増えている。HUDシェアトップの日本精機は、需要増加に対応するため、ポーランドに工場を新設、4月からHUDの量産を開始した。技術開発も強化しており、AR(拡張現実)機能を加えたHUDはメルセデス・ベンツの上級モデル「Sクラス」に採用された。
ARの要素を盛り込んだHUDはマクセルがサイズを約半分に小型化した「ネオHUD」を開発した。HUDは設定モデルが拡大しているものの、サイズが大きいことが課題だった。搭載スペースが限られる軽自動車やスポーツカーへの搭載を見込んでいる。今後、トラックなどの商用車向けの次世代HUDも開発する計画。
次世代ディスプレーの研究開発も進む。非接触型の「空中ディスプレー」はその1つ。操作するコマンドなどを光の反射を利用して空中に表示する。センサーなどと組み合わせ空中でタッチパネルと同じような感覚で操作できるのが特徴だ。アルプスアルパインや凸版印刷などが共同開発を進めている。まずはエレベーターなどの操作パネルへの活用を想定しているが、車載機器への応用も検討する。
※日刊自動車新聞2022年(令和4年)6月25日号より