経済産業省は、電動車用の電池における人権侵害などリスクの把握に乗り出す。電池メーカーに対し、自社で調達している鉱物資源の採掘状況を調査させる試行事業を始める。車載用電池の材料であるコバルトは生産の7割近くをコンゴ民主共和国に依存しており、現地での児童の労働力搾取などが問題になっている。電気自動車(EV)の本格普及を見据え、電池サプライチェーン(供給網)全体の健全化を急ぐ。
コバルトやニッケルなどのレアメタルはEV用電池の生産には必要不可欠な鉱物だが、これら鉱物の採掘や加工のプロセスにおける人権侵害が問題視されている。特にコバルトの世界生産の7割を担うコンゴでは、採掘現場で児童が働かされ、けがをしたり命を落とすケースも少なくない。電池メーカーを中心とした自動車産業には、人権や労働環境に対するリスク管理が求められる。
こうしたことから経産省は、電池サプライチェーンの健全化に向けた試行事業を始める。コバルト、ニッケル、リチウム、黒鉛といった鉱物を対象に、採掘や精錬、加工などの各プロセスで人権侵害されていないかなどの情報を収集する。試行事業に参加する電池メーカーは、正極・負極メーカーや電解液メーカーに調査を依頼し、それぞれが調達先の傘下サプライヤーに同様の調査を依頼することで精錬業者まで状況把握が行き届くようにする。人権侵害以外にも、土壌や生物多様性への配慮など環境リスクも調査する。来年2月までに試行事業を完了させ、その結果をルールづくりなどに反映するとみられる。
人権に配慮した供給網は人命を守ることはもちろん、ESG投資の判断基準にもなる。日本の電池産業の成長に向け、早期に調査体制を整える。
※日刊自動車新聞2022年(令和4年)7月28日号より