政府の「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金(CEV補助金)」の申請受付が10月末にも終了する見通しになり、自動車メーカーや販売店が対応を進めている。三菱自動車は「eKクロスEV」のテレビコマーシャルから補助金額の表記を急きょ削除した。販売店では商品力に重点を置いた商談に切り替えているほか、補助金終了の可能性を了承してもらうための同意書を取得するケースが増えている。車種拡大により電動車への関心が高まっているだけに、販売現場からは「まずは補助金を継続するとの方針だけでも示してくれればありがたい」(北海道の三菱販社社長)との声が聞かれる。
次世代自動車振興センター(堀洋一代表理事)の発表によると、CEV補助金の7月25日時点の予算残高は約177億円。現在のペースが続けば10月末にも終了する見通しだという。今年度は補助金の総額は増額したものの、日産自動車と三菱自の軽電気自動車(EV)の受注が好調に推移していることなどにより、受付期間が前年度の11カ月間から大幅に短縮することになる。
補助金終了の見通しを踏まえ、三菱自は補助金が間に合わない可能性を伝えるように販売店に通達。メーカー側では軽EVのテレビコマーシャルから55万円という補助金額を削除した。一方、日産は補助金の早期終了を見越し、6月頃に販売店が任意で使用できる同意書を配布。7月中旬には三菱自と同様の通達を販売店に出した。自動車業界団体も加盟企業に同様の通達を行っている。日本自動車輸入組合(JAIA、クリスチャン・ヴィードマン理事長)は「組合としては、引き続き会員企業に最新の情報を発信していくことになる」という。
販売店も対応を変えている。東北地区の日産販社社長は「補助金ありきの商談は止めた」と商品力を重視した商談を推進。「6月時点で夏頃には補助金が無くなるだろうと予測し、その旨を丁寧に伝えてきた」(近畿地区の三菱販社役員)と一部の販社は発売当初から補助金の早期終了を見越した対応を進めていたが、次世代自動車振興センターの公表以降に同意書を取り始めた販売店は少なくない。
懸念されるのは補助金を前提とした商談を行っていた顧客への対応だ。北海道の別の三菱販社社長は「補助金が間に合わなかった場合、注文のキャンセルもやむを得ないだろう」と危惧する。三菱自は11月上旬に発売予定の「アウトランダーPHEV」の23年イヤーモデルの受注を進めているが、「一定の台数の受注を得ているため、10月末で補助金が無くなれば影響は大きい」。エコカー補助金など過去の補助金制度では一部の販売店やメーカーが補助金不足分を補償する事例もあったものの、今回の補助金は手厚いだけに「販売店が全額を負担するのは現実的に不可能」(東北の日産販社販促担当者)とみられる。
販売会社からは「補助金の空白期間をつくらないようにしてもらいたい」(関東地区の日産販社役員)と、補助金の継続を求める声が多く聞かれる。EVやPHVの普及に向けた機運が高まっているだけに、電動車の購入を促す最適な補助金制度の構築が求められる。
※日刊自動車新聞2022年(令和4年)8月6日号より