海上運賃の上昇が自動車メーカーの通期業績に重くのしかかりそうだ。海上コンテナの輸送費高騰や船のスペースの確保が難しい状況の継続は大きな減益要因となる。下期は半導体の供給が改善し、挽回生産が進むことで輸出も増加する見通しだ。一方で、今後は自動車船の確保も一層難しくなることが予想されるなど、物流の環境は不透明感が強まっている。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、港湾ではコロナ禍前に比べ検疫に時間を要するようになった。この結果、港が混雑し、トラックや船舶が滞留する状況を招いている。船舶の需要に対し供給量が少なく、部品の調達などにおける海上コンテナの輸送費の高騰が続いている。
三菱自動車は2023年3月期通期の半導体不足と中国・上海市のロックダウン(都市封鎖)の影響を5月の決算発表時と比べ約3万台改善するとみる。しかし、「船腹の確保が難しく2万5千台ほどマイナスになる」(池谷光司副社長)と5千台の改善にとどまる見通しだ。
日産自動車は22年4~6月期は物流費が83億円の減益要因となった。アシュワニ・グプタ最高執行責任者(COO)は「今期は物流費の影響がかなり大きかった」とし、理由の一つに港湾がコロナ禍以降の混雑から解消されていないことを挙げた。「日本から米国に行くのも時間がかかっており、物流コストが上昇している」と指摘する。いすゞ自動車の中俣直人常務執行役員も「海上運賃の上昇は改善されておらず、厳しい状況が続いている」と認識する。
一方、自動車の生産は下期にかけて回復する見通しだ。「半導体などクリティカルな部品のめどがある程度ついている」(トヨタ自動車)と、半導体不足の解消を見込む自動車メーカーは多い。ただ、挽回生産が進めば輸出台数の増加も見込まれるため、船舶の需給ひっ迫は続くとみられる。
三菱自は通期予想で輸送費155億円を減益要因に織り込んだ。長岡宏副社長は「すでに確保している船舶の運賃が上昇している。他の自動車メーカーを含めてリカバリーのモメンタム(勢い)が強く、船舶が足りなくなっている。コロナ禍が収束していない地域では船が回っていない」と指摘する。一部の地域では運賃の上乗せも必要とみる。
自動車メーカーは物流費上昇への対応を重要課題と位置付ける。「末端までのデリバリーを最適化してコストを打ち消す」(日産・グプタCOO)、「少しでも船腹を取り、価格を安くできるよう商社に依頼している」(いすゞ・中俣常務執行役員)と業績へのマイナス影響を最小限に抑える対策を強化する方針だ。
※日刊自動車新聞2022年(令和4年)8月9日号より