半導体不足の長期化は、スマートフォン(スマホ)などの他領域と調達で競合することが要因として挙げられるが、その根底には自動車産業と半導体産業の商慣習の違いが作用している。完成車メーカーなどは「ジャスト・イン・タイム」に代表されるように、極力部品の在庫を抱えず、数カ月単位の短期発注を基本としている。一方、半導体産業は、長期発注が基本で、車載向けよりも単価が高く高性能品となるスマホ向けなども手掛けていることから、既存の部品メーカーとは異なる立ち位置で完成車メーカーとの関係性構築を望んでいる。
このミスマッチを埋めるため、経済産業省が間に立ち、自動車メーカーに対して最低でも6カ月先までの生産計画を半導体メーカーなどに提示するよう呼び掛けた。実需に基づく確定注文なども求め、生産台数が下振れした場合も半導体メーカーを含むサプライチェーン(供給網)にその影響が極力響かないよう配慮を求めた格好だ。更に一部の半導体メーカーからは、設備投資計画を策定する上で、3年以上の長期確定注文が必要との声もあり、自動車産業に対して従来の商慣習からの転換を迫っている。
圧倒的な需要過多の現状を打開するため、政府は半導体の生産工場の国内誘致に乗り出した。台湾積体電路製造(TSMC)がソニーグループなどと熊本に新設する生産工場への補助金支援を決めたほか、キオクシアと米ウエスタンデジタルの合弁会社に対しても生産設備整備費用を補助する。日本企業との合弁を条件としているものの、支援する企業を日本企業に限定しない方針からも分かるように、国内に半導体の生産基盤を設けることを第一に位置付けている。海外の先端ファウンドリを呼び込むことで、日本企業の強みである製造装置や素材の技術を磨く狙いもある。
政府は日本の半導体産業の立て直しを急ぐが、残された時間はあまりない。かつて日本の半導体産業は世界シェアの5割を握っていたが、水平分業への移行の遅れなどから足元では1割未満にシェアを落としている。大きな存在感を示してきた台湾や韓国、5割近くのシェアを持つ米国などは行政として半導体産業に数兆円規模の投資を決めており、行政支援でも日本の出遅れは目立つ。
車載用に絞れば、自動運転や電動化で求められる半導体の質・量ともに増すことが見込まれる。日本国内で次世代技術に対応した半導体を調達できる体制を早急に構築できるかが将来の日本の自動車産業の生き残りを左右することになる。
※日刊自動車新聞2022年(令和4年)8月17日号より