経済産業省は、水素と合成燃料に関する官民協議会をそれぞれ年内にも立ち上げる。自動車メーカーや石油元売り・流通事業者らとともに中長期的なロードマップ(工程表)を作り、技術開発と法整備を一体的に進める。足元では電気自動車(EV)への期待が高まるが、電池コストや資源制約、充電インフラ整備など、普及には課題も多い。経産省は日本企業の強みを生かし、多様なパワートレインでカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)の実現に取り組む。

水素に関する協議会は主に商用車を対象とする。荷室を確保したり、燃料補給を短時間で済ませる関係上、商用車のパワートレインは燃料電池(FC)が向くとされる。また、トヨタ自動車が主導する商用車連合はFC商用車のほか、大型商用車向け水素エンジンの基礎研究にも着手している。今秋に立ち上げる協議会では、商用車メーカーや石油元売り、水素ステーションの普及団体などが車両と水素ステーションの普及シナリオを一体的に練る。
一方、合成燃料の協議会は、自動車メーカーや石油元売りのほか、石油流通事業者で構成する全国石油商業組合連合会や日本自動車工業会なども加わるとみられる。二酸化炭素(CO2)と水素による合成燃料は、CO2を再利用するためカーボンニュートラルと見なされるほか、既存の内燃機関や燃料インフラを使えるなどの利点を持つ。海外では、アウディが水素とCO2から製造した「eガス」を2018年に開発したほか、ポルシェが米国やチリで合成燃料を製造する企業に出資するなどの事例がある。
ただ、水素、合成燃料ともに安定供給と製造コストの引き下げが課題。特に合成燃料の製造にも必要な水素は現在、1ノルマルリューベ当たり約100円で、合成燃料にすると1㍑約700円にもなる。
政府は「グリーン成長戦略」で50年までに水素価格を20円、合成燃料を1㍑約200円に下げる目標を掲げる。海外の褐炭(かったん)から製造した水素を大量輸入するなどの試みも進むが、技術開発やインフラの整備を進めるためには、一定の燃料需要を確保することも必須となる。
経産省としては、ロードマップの作成過程を通じ、技術開発や投資面で関係企業の足並みをそろえるとともに、補助金や法整備などで水素と合成燃料の普及を後押ししていく考えだ。
【用語解説】合成燃料
工場などから排出された二酸化炭素(CO2)と水素を合成して製造される燃料。再生可能エネルギー由来の水素を用いた場合は「eフューエル」という。ガソリン同様エネルギー密度が高く、生成工程でグリーン水素などを用いることから、既存の内燃機関車で脱炭素化を図れる燃料として期待されている。生成コストが課題になっており、コストの大半を担う水素価格をどこまで低減できるかが普及のカギを握る。政府は2兆円の「グリーンイノベーション(GI)基金」から合成燃料を含む脱炭素燃料開発に約1150億円の拠出を決めており、モビリティにおける次世代燃料として活用を目指している。
※日刊自動車新聞2022年(令和4年)9月1日号より