日産自動車が仕入れ先36社に対し、正当な理由なく部品発注時に決めた金額から「割戻金」として一部を差し引いていた行為が下請法(下請代金支払遅延等防止法)に違反するとして、公正取引委員会が再発防止を同社に勧告した。典型的なピラミッド構造の自動車産業は、日産に限らず取引先に対する無理な要求がこれまでも問題になってきた。ただ、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)対応にはサプライヤーとの連携が欠かせず、これまでの従属的な関係は岐路に立っている。
公取委によると、日産が下請け金額を不当に減額していたのはホイールなどを手がける部品メーカー36社で、減額分は合計30億2367万円にのぼる。同法違反として過去最高額だ。日産は公取委の指摘を受けて全額を下請企業に支払ったとしている。
公取委が違反を確認したのは2021年1月~23年4月の約2年間だが、実際は長年にわたってこうした慣行が行われていたとみられる。ある部品メーカーの首脳は「(一方的な減額は)以前からで、減額分は30億円などではなく、少なく見積もっても数百億円規模だろう」と明かす。
日産に対する勧告を発表した記者会見で、公取委の菅野善文上席下請取引検査官は「(日産としては法令に)違反すると認識していなかった」と説明した。日産は原価低減目標を仕入れ先と決め、この目標を達成できなかった分を「割戻金」などとして発注額から差し引いていた。菅野検査官によると、日産としては「原価低減方法のひとつ」で、違法との認識はなく、形式上も日産と仕入れ先との間で割戻金について合意している形になっていたという。
しかし、経済産業省がつくった「自動車産業適正取引ガイドライン」には「下請けイジメ」の事例として「発注側の原価低減目標は基本的に両社の折衝を経て決めるが、状況によっては指示された水準に同意せざるを得ないことがある」や「原価低減要請に応じないと、次回のコンペに参加できないなど、今後の取り引きに不利になることを理由に一方的な要請を強いられることがある」など、仕入れ先の〝本音〟がズラリと並ぶ。
特に日産の場合、長年にわたってトップを務めてきたカルロス・ゴーン氏の経営方針もあり、取引先に厳しいコスト低減を突きつけ、サプライヤーがこれを断ると発注が打ち切られるケースもあったとの声がある。「コストに厳しい日産グループとは取引したくない」と明言する中堅サプライヤーの首脳もいる。
ただ、完成車メーカーを頂点とするピラミッド構造の自動車産業では、部品を発注する側の無理な要求を呑まざるを得ないケースが少なくない。公取委によると、今回の日産を含めた自動車関連企業の減額関連の下請法違反は、04年以降、14件あった。「特別費用」「一括値引き」など、さまざまな費用として下請代金を差し引いている。2022年12月には、公取委が下請け企業との取引価格に原材料や人件費の上昇分を転嫁していなかったとして社名公表した13社にデンソーと豊田自動織機が入った。
自動車メーカーが開発工数が増大する自動運転や電動化などの次世代技術に対応していくためには、開発の初期段階から組んだり、開発工程の一部を委託するなど、サプライヤーとの関係がより重要になる。「上位下達」の感覚を捨て、真のパートナーとしてサプライヤーと接しなければ、競争力を失うことになりかねない。
(藤原 稔里)
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)3月11日号より