3年ぶりにリアルでの開催となった「人とくるまのテクノロジー展」。コロナ禍が収束していない中での開催とあって、出展社数は484社と、コロナ禍前のように通路にも出展企業が立ち並ぶことはなかったものの、会場は最新の自動車関連技術や開発品の情報を求めて、多くのエンジニアや学生などで沸いた。メインテーマに「カーボンニュートラル」を据えたこともあって、各社のブースには電動車関連の製品や技術の展示が目立つ。グローバルでは電気自動車(EV)シフトが加速する中、日本の自動車メーカーや部品メーカーはEVに出遅れたとされる。会場では想定以上のスピードで加速する電動車シフトの遅れを取り戻そうとの各社の意気込みが伝わってくる。
電動車シフトによって、自動車の動力源は内燃機関からモーター駆動へと移行する。これに伴ってモーター、インバーター、減速機を一体化した駆動モーターシステム「eアクスル」や周辺部品の開発競争が激化している。アイシンはeアクスルをはじめ、熱マネジメントや、回生協調制御ブレーキ、空力デバイスなどを電動車の省電力化に寄与する製品群を展示した。EVの電費を10%向上させる目標を掲げており、電動車向け事業の開拓に注力する。
電費向上の柱となるのがeアクスルで、第1世代モデルはトヨタ自動車の新型EV「bZ4X」に採用された。2025年に第2世代、27年には第3世代のeアクスルの量産を計画しており、小型から大型まで幅広いEVへ対応すると同時に、高効率化と小型化、低コスト化を進める。
ジヤトコは20年半ばの市場投入に向けて開発しているeアクスルの試作品を展示した。モーターの中心軸をドライブシャフトが貫通する同軸型のeアクスルは日本初公開。3軸型も含めてトランスミッション開発で培ったギア技術を生かしているのが特徴だ。
さらに「変速機能付eアクスル」を開発する方針を明らかにした。同社の佐藤朋由社長は「カーボンニュートラル対応だけでなく、大型車に求められる駆動力、スポーツカーなどに求められる走る楽しさを備えたEVニーズに対する答えの1つとして研究開発している」と話す。さまざまなニーズに対応するeアクスルを展開し、30年にeアクスルの年間生産台数500万台を目標に掲げる。
旭化成は、EVシフトを想定した新たなコンセプトカーで、同社グループの素材15製品を採用した「アクシー2」を公開した。素材各社がモビリティビジネスを成長事業として位置付ける中、「電動化や自動運転で車内空間が大きく変わる」(モビリティ推進室の森住昌弘氏)ことを想定して開発したコンセプトカーで、居住空間を重視するため、住宅事業とも連携した。
EVの商品力強化につながる技術開発も進む。日立製作所と日立アステモは、インバーター(電圧変換器)のエネルギー損失を30%低減するとともに、サイズを半分に小型化したEV向け薄型インバーターを開発した。電力供給を制御するパワー半導体をプリント配線基板と一体化することで電力配線を簡素化した。発熱問題を回避する基本技術となっている。「EVの急速充電システムや送電システムなど社会インフラへも展開する」(同社)ことで、車両電動化に伴う周辺ビジネスの拡大にもつなげることを狙う。
EVの航続距離の延長に向け、リチウムイオン電池材料の開発も進む。東芝は、負極材にニオブチタン酸化物(NTO)を使った次世代急速充電電池を出展した。チタン酸リチウムを用いた主力製品「SCⅰB」と比べ、約3倍の負極容量密度が見込まれ、充放電の頻度が高く、信頼性が求められるバスやトラック、大型重機などへの応用を視野に入れる。同社電池事業部の石和浩次シニアエキスパートは「(NTO)は乗用車だけでなく、あらゆる領域に対応できる」としている。
日本特殊陶業はリチウムイオンキャパシタを初出展した。マイナス55~85度の幅広い環境下で使用でき、高容量、高出力が特徴。冗長性を備え、電動車や自動運転などでの搭載を目指す。研究開発本部の松浦広幸主任は「後発にはなるが、性能とコスト面両立で高いレベルを実現する。車載用の電源に向けて最適な市場を探り、開発を進める」と話す。
内燃機関向けに強みを持つサプライヤーもEVシフトを急ぐ。独マーレはバッテリークーリングプレートを出展した。温度管理技術と加工技術を活用して高い平面度を実現。複雑化するEVの組み立てラインに対応するため、チラー(冷却水循環装置)と一体化した。絶縁性のオイルを使ったバッテリー冷却システムも展示した。重量があるが、日本でも普及が急がれる急速充電でも発熱を防ぐことができる。同社の田尻勝也エンジニアリングマネージャーは「対応策の1つとして提案していきたい」としている。
独ヘラーと仏フォルシアは、統合後のフォルシアグループとして初の共同出展となった。EV向けではヘラージャパンが、EVの熱マネジメントに必要な機能を1つのシステムにまとめた「クーラントコントロールハブ」を初出展した。バッテリーや駆動用モーター、車室内空調などの冷熱回路統合を可能にするという。
ダイキョーニシカワは、光を透過し、映像投影が可能なインストルメントパネルを世界で初めて開発した。素材は表皮で、同社のパウダースラッシュ成形技術を生かして光透過などを実現した。同社はインストルメントパネルのほか、電装部品も内製化しているためパッケージとして提供できる。コスト低減、工程管理のしやすさなどでも差別化を図る。
※日刊自動車新聞2022年(令和4年)5月26日号より