ホンダは3日、認証不正に関する会見を本社(東京都港区)で開いた。三部敏宏社長、貝原典也副社長コンプライアンス&プライバシーオフィサー、玉川裕執行役品質改革本部長が出席した。主な質疑応答は次の通り。
―問題発覚の受け止めを
三部社長「ホンダは数十年前から、開発生産分野とは独立した『認証法規部』で認証試験をやってきた。本来、こういうことがあってはならない。今回は認証法規部の中で、技術的な『都合のいい技術的解釈』と言っていいと思うが、(出力試験は)ばらつきの範囲内であれば少し数字を変えてもエンジン性能には影響しないとか、(騒音試験は)ワーストケースで保証していれば法規上は必ず満たしているとの解釈があった。こうした判断へのチェックが不足していた。性能が出ていないものに対する(データ)改ざんということではないが、起きた事実を真摯(しんし)に受け止め、改善の糧として、順法精神を全従業員で再度、認識し業務に当たりたい」
―事案の対象台数は
貝原副社長「騒音試験が22車種、63型式、対象台数が約264万台。原動機の虚偽記載が8車種23型式、対象は約127万台。発電機が4車種9型式、対象が約44万台」
―一報を聞いてどう思ったか
三部社長「最初に報告を聞いたのは4月26日。データが残る15年分をすべて調べるのに5月末までかかると聞いており、今回すべて出しきったと考えている。認証法規と認可を通って、初めてお客さまに商品が渡る。最後の砦(とりで)なので、順法性の観点でもう一度、チェックする必要があると感じた」
―もっと早く気付けなかったのか。リコール(回収・無償修理)が相次いだ2014年頃の「負の遺産」を整理できなかったのか
三部社長「開発を含めて非常に厳しい時期も過去にあり、関連性を調べたが、認証法規部への影響はない。(データの)ばらつきに対して『ワーストケースで保証すれば問題ない』という考え方が現場の判断でまかり通っていた。過去に大きく4回、調査をやっているが、(他社で)起きた事象や特定の機種だけを抜き取って調査し、報告していた。今回はホンダの文書管理規程で15年(データを)保管する中で、手元にある全データを認証書類と突き合わせて初めて浮かび上がった」
三部社長「ワースト条件でやることが順法性に反するという認識がなかった。だからその間、担当者がずっと続けて対象台数が多くなった。ただし、エンジニアリング的な考察と、順法性は全く話が別で、重大な問題があった。自動車というビジネスを支える上で、順法性が最も上位にあるべき。今後その考え方は変えるつもりはない」
―認証部門へのプレッシャーはあったか
三部社長「ヒアリングの結果、今回は『追い込まれてやむを得ずやった』ということではなく、認証業務の効率化や『再テストをできるだけやりたくない』という思いもあった。認証業務の効率化と言えるが、順法精神から逸脱している。そういう感覚が欠如していた。今日、全従業員に対して私からのメッセージとして、順法精神を今一度、再認識して気を引き締めていこうと話をした。『ホンダ行動規範』というものもある。順法精神向上のための研修も6月にやる予定だ」
―再発防止策は
三部社長「25年度に業務プロセスを完全にデジタル化する。今回の事象を重く受け止め、24年度からは型式指定申請業務に特化した内部監査を新設し、未然防止に向けた監査体制を強化している」
玉川執行役「一つひとつの工程を人でつなげてやっているが、ワークフローをデジタル化して人の介在をできるだけ減らす。テスト結果を資料に自動転記するといった仕組みを取り入れ、ミスを撲滅したい」
貝原副社長「もう一つは、品質管理部門が独立した品質部門として、今後の認証法規部門への監査をしていく」
―経営責任や処分は
三部社長「担当者レベルでは悪質性はなく、順法性に対する考え方が甘かった。担当者ベースでの処分は考えていない。経営についても今回、認識していない中で行われていた。現在は起きていないし、善管注意義務については問題ないと考える」
―今後、外部の専門家を入れた調査を実施する考えは
三部社長「貝原(副社長)を調査本部長として、認証法規部のデータをベースに独立して検証し、結果、こういうことが出てきた。現段階では十分、調査ができていると思う。今後は国土交通省の立ち入り検査などの結果を受けて対応を決める」
―認証部門が設計開発部門に忖度(そんたく)したのではないか
三部社長「忖度、配慮はない。従業員意識調査の結果などでも、認証法規部のコンプライアンス(法令順守)に対する考え方は非常に高いものがある。情報や考え方が完全に独立した組織で、例えば性能が出ていないものを水増しして認可を出すということは起こり得ない」
玉川執行役「開発部門と認証法規部は建屋も別だ。開発フロー上も独立し、認証試験がNGの場合、日程を延ばせる権限が与えられているのがわれわれの認証法規部だ。忖度はないと断言できる」
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)6月6日号より