政府・与党が水面下で検討している「走行距離課税」について、日本自動車工業会の後藤収税制部会長(日産自動車理事渉外担当役員)は「東京では良いかもしれないが、地方では燎原(りょうげん)の火のごとく反対が広がるだろう」と語り、「(税収が)足りないからといってつまみ食いするのではなく、長期を見据えた大きな議論をしてほしい」と語った。
9日までに日刊自動車新聞の取材に応じた。走行距離課税は簡素な手法が海外の一部で導入されているが、後藤部会長は、「うまくやれている事例は世界にない」と指摘した。その上でカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)もにらみ、「長期的なコンセンサスをつくり、受益と負担の関係でどういった絵を描いて、何に税をかけるのか、まずは時間をかけて議論するべきだ」とし「その(議論の)答えとして走行距離課税が出るならまだ分かるが、単に(税収の)穴埋めであれば、あまりに安直すぎる」と強くけん制した。
後藤部会長は一方で、カーボンニュートラル時代に即した自動車の税体系として「カーボンの量に応じて税金を決めるのも一つ」と例示した。ただ、「それを単純に自動車や燃料だけで議論するのではなく、産業界全体、国民も含めて議論する必要がある」と語り、半世紀ぶりの刷新となる自動車税制については、政府・与党による年末の議論にとどまらず、時間をかけて国民的議論を尽くすべきだとの考えを示した。
政府・与党の一部では、電動化で減る燃料税収を穴埋めしようと走行距離に応じた新たな車体課税を検討している。鈴木俊一財務相は先月20日の参議院予算委員会で「走行距離課税は一つの考え方である」と語った。
ただ、走行距離が課税ベースになれば、都市と地方、自家用と事業用などで税負担が偏ったり、移動が抑制されることで経済活動が萎縮しかねない。また、不正防止策などを含め、課税技術にも課題が多いとされる。
※日刊自動車新聞2022年(令和4年)11月10日号より