旧ビッグモーターによる整備工場での不適切な行為などを発端に、車体整備業界の改革が進んでいる。国土交通省が3月に公表した「車体整備の消費者に対する透明性確保に向けたガイドライン」では事業者に求められる取り組みとして、車両の画像や作業の内容と方法、料金に関する情報の記録と一定期間の保存を求めた。旧ビッグモーターでは、板金塗装(BP)工程の確認プロセスが不十分かつ事後的な検証が確保されていなかったことが背景の一つとして挙げられている。こうした状況も踏まえ、整備関連の団体や企業が対応を急いでいる。
日本自動車車体補修協会(JARWA、吉野一代表理事)が7月に運用を始める「自動車修理の〝見える化〟認定制度」では、車体整備工場が、ユーザーや損害保険会社などの入庫元に対しての透明性確保を支援するサポートツールの開発を進めている。車体整備工場向けの作業工程管理システムとユーザー向けアプリの2種類を無償提供する。国交省のガイドラインにも沿った情報の記録などを念頭に置いたもので、申請段階から配布し、見える化の改善と運用を同時に支援していく。
同制度は①車体整備/分解整備②顧客対応③ESG(環境・社会・企業統治)経営―の視点で車体整備工場を審査・認定するもの。整備事業者団体や損害保険業界などでも認定制度はあるものの、双方と利害関係を持たない団体が認定制度を運用する珍しいものとなっている。
車体整備工場向けの業務支援システムでは、MIRAI(ミライ、玉中哲二社長、東京都千代田区)が開発・販売する板金工程管理システムをリニューアルして5月に発売した。同システムは車両1台ごとに専用ウェブページを作成し、顧客や入庫紹介元の損保会社やディーラーと見積書や修理中の写真などを即時共有できる。顧客向けにはショートメッセージサービス(SMS)でホームページアドレスを送信している。
リニューアルでは入庫時と修理工程、納車前の形で、きめ細かく画像を掲載できるようにした。車両の部位別や、作業の脱着や板金、塗装など工程ごとにも分けることができる。導入工場が取り込む画像枚数の増加を見込み、スマートフォンから容易に画像をアップロードできる専用サイトも設けている。
車体整備工場が加盟するDRPネットワーク(津島信一代表、東京都葛飾区)では23年、加盟店向けシステムに「修理レポート」機能を追加した。修理時に撮影した写真からリポートを作成し、ユーザーの要望などに応じて印刷物などを配布できるようにした。また、加盟店で統一している事故車両の入庫時に必要な撮影手順書を2月に改定。先進運転支援システム(ADAS)などエーミング(機能調整)作業にも対応させた。
ADASは事故被害を低減していくものだが、誤作動すると事故につながる可能性がある。適切な修理作業を実施したエビデンス(証拠)を残せるようにすることで、加盟店を守るとともに、顧客への説明責任を果たす狙いだ。
旧ビッグモーターでは、車体をゴルフボールで叩いて新たな損傷を作り出したり、不必要な作業と部品交換などが行われていたりしたことが明らかとなっている。
これを受けて、顧客から不必要に疑われた事業者も少なくない。複数段階で詳細な写真を残していくことは、消費者への透明性を確保すると同時に、責任の所在を明確にする上でも重要となりそうだ。
(村上 貴規)
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)5月27日号より