自動車公正取引協議会(自動車公取協、倉石誠司会長)による中古車の「支払総額」表示制度が1日にスタートした。これにより、ウェブ上や各社の店頭で中古車購入に関するさまざまな諸費用の表示が義務化された。自動車公取協に加盟する販売店全てで透明性が高い価格体系を採用することで、中古車購入に付きまといがちな分かりにくさを払しょくし、ユーザーに安心感を付与するのが狙いだ。折しも、今夏に大手中古車販売店のあまたの不適切事案や前時代的なパワーハラスメントが表面化し、中古車業界全体のイメージダウンが著しい。その中で総額表示制度がどこまで信頼回復に役立つのか、近畿地区の現状をリポートする。
中古車検索の主流が紙媒体からネット経由に移行し、パソコンやスマートフォン(スマホ)を使って目当ての車を探し出す消費者が増えて久しい。半面、販売店サイドは少しでも金額を割安に見せるため、小売価格を引き下げると同時に、納車準備費用やオークション陸送費、土日祝納車費用などあの手この手の費用を別途請求する。
これが中古車業界関係者から不公平との指摘があったうえ、ユーザーからの不信感を招いていた。このため自動車公取協が対応に乗り出し、2021年から消費者や事業者からのアンケートなどの手続きを経て、今秋からの規約改正を決めた。
実際にその金額で購入できないにも関わらず、可能なように誤認する恐れのある不当表示は警告、厳重警告を通達する。悪質な場合の違約金は初回が最大100万円で、2回目以降は500万円が徴収される。
いち早く対応に乗り出したのがダイハツ陣営だ。今春から全国のダイハツディーラーで中古車カルテ、保証制度、点検を付与した「オネスト」の取り組みを開始した。義務化前に諸費用まで含めた総額を表示することで、新規顧客が獲得できなくなるリスクを抱えたままで船出した。滋賀ダイハツの林賢司中古車本部長は「名実ともに正直さ、誠実さを訴求することで新たなお客さまの取り込みを図りたい」と説明する。
問題の背景に存在するのが、若年層の車離れなどで自動車に関する関心が薄れ、購入時に必要な諸費用について詳しくない消費者が増えていることだ。自動車公取協の調査では「車庫証明などの手続きはプロでないと不可能だ」と顧客に説明した事業者まで存在する。車に関する知識が乏しいからこそ、販売店サイドの申告通りに、納車点検費用や通常仕上げ費用、洗車費用などのコスト負担に疑問を抱かないわけだ。
今月以降は諸費用が適正化されると同時に、納車時には定期点検整備の「あり」か「なし」を明確に表示することが必要になる。京都府の中古車専業者は「実際に当社でも『本当にこの金額で買えますか』との声を聞く。ユーザーの立場に寄り添った規約になることはありがたく、中古車業界の信頼度向上に結び付くのでは」と歓迎する。
日本中古自動車販売協会連合会近畿連絡協議会(JU近畿、財藤和喜男会長)傘下の各商組でも総額表示に関する説明会を開催し、制度の趣旨浸透に努めている。財藤会長は「業界全体は消費者から非常に厳しい目を向けられている。今回の総額表示によって適正な取引環境を整え、消費者への信用、信頼の回復の第一歩にしたい。10月を業界の分岐点として、販売店の皆さまにはしっかりと取り組んでもらいたい」と話している。
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)10月2日号より