対象外も多数存在するが
特定整備制度の開始まであと6日となった。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、「電子制御装置整備の整備主任者等資格取得講習」が延期になるなど各地で影響が出ているが、迅速な資格取得とビジネス展開に向けて動き出している事業者は少なくない。4月1日から始まる特定整備だが、国は対象車両についてホームページなどで情報を提供する予定。また、対象装置は保安基準が設定されているものであることから、最初に特定整備が適用されるクルマは、2012年3月12日に衝突被害軽減ブレーキの保安基準が設定された大型車(22㌧超)ということになる。
乗用車の衝突被害軽減ブレーキについては、20年1月31日に保安基準が施行されたことから、同日以降に製作されたクルマが特定整備の対象となる。
ただ、注意しなければならないのは、保安基準が設定される以前に装着された装置は対象にならないということ。1月31日以前のクルマ、言い換えると、いま走っている衝突被害軽減ブレーキ搭載車の多くは特定整備の対象外ということになる。
保安基準の施行日という法制度の関係で多くの既存車が対象外となるものの、クルマの安全安心を担う整備工場にとっては特定整備の対象車種か否かに関わらず、エーミングが必要な車両については確実な作業実施が求められる。
国も「先進運転支援システムが装着されたクルマは新しい標識(電子制御装置整備の)を掲げる整備工場への入庫を促していく」方針だ。
徐々に整う検査基盤
特定整備への対応が中長期的な事業継続を左右するといっても過言ではない状況にきている整備業界だが、その中で整備事業者が認識しなければならないのは、特定整備に対応することはゴールではなくスタートだということだ。
まずは足元で経過措置の対象となることも重要だが、クルマの安全維持を担う整備事業者が何より意識する必要があるのは、来たるべき自動運転社会においてもクルマの点検整備を担うのは整備業界だという事実に他ならない。
自動車整備を規定する道路運送車両法を改正し特定整備を導入するのはそのためであり、特定整備が先進安全自動車(レベル2)のみならず、今後登場する自動運転車(レベル3以上)の使用段階における安全性を確保するための制度となっているのがその証といえる。
特定整備に先立って導入が決まった車載式故障診断装置(OBD車検)についても考え方は同様だ。現在の車検制度では対応できていない運転支援装置の機能を確認する内容で、24年(輸入車は25年)から検査を開始する。
検査対象は21年(輸入車は22年)以降の新型の乗用車、バス、トラック。横滑り防止装置やアンチロックブレーキシステム、緊急自動ブレーキなどが検査される。
検査内容はまさに21年10月に特定整備で導入される新たな点検基準とリンクしており、OBD車検も特定整備における新しい点検整備も、将来の自動運転車を見据えた新たな点検整備となる。
4月1日に特定整備、24年にはOBD車検が導入され、次世代自動車に対する点検整備、検査制度の基盤が整うことになる。
現在、国は自動車整備技術の高度化検討会の傘下に「自動車整備士資格制度等見直しWG」を設置。特定整備に対応する新たな資格の導入も視野に入れた議論を進めている状況だ。
国は高度化する車両技術に対応して関連法制度の見直しを進めるが、一方で、クルマを点検整備し安全性を維持をする整備事業者の社会的役割が変わることはない。
メカニック不足や後継者問題など、整備事業者が足元で抱える経営課題が山積しているのも事実だが、次世代自動車整備に対して強い意識を持ち、技術力や知識を習得することが、自動運転社会におけるクルマの安全と安心が整備業界によって守られることにつながっていく。(おわり)
=この連載は水町友洋が担当しました=
※日刊自動車新聞2020年(令和2年)3月26日号より