企業再生などを手掛けるコンサルティング会社、米アリックスパートナーズは、ロシアによるウクライナ侵攻が自動車産業に与える影響を分析し発表した。半導体不足や原材料価格の高騰など、進攻前からの課題がより複雑化し、産業全体が重大なリスクを抱えていると指摘する。
業界関係者へのインタビューや関連するデータのとりまとめや、自動車メーカー、サプライヤー、原材料の3つの観点から分析した。
ウクライナには1998年以降、22社のサプライヤーが38カ所の生産拠点を設立。合計6億㌦を投資し、約6万人の雇用があったと想定される。特に、同国に生産拠点を持つサプライヤーの半数がワイヤーハーネスを手掛け、国別輸出額では上位10か国に入る(表1)。供給不足回避のため生産・組み立て工場を移転する動きがあるが、人員確保や組立機械の移転などで困難を伴うとしている。
原材料では、ウクライナが世界最大の産出国であるネオンが半導体の製造工程で使われるため、影響が懸念される。半導体メーカー各社は2014年のクリミア危機以降、同国への依存度を減らす取り組みや、最大で半年分の在庫を確保する対策を講じているものの、アリックスパートナーズは「紛争が長期化すれば、世界の半導体に再び危機が訪れる可能性がある」と警鐘を鳴らす。
またロシアは石油や天然ガス、パラジウム、プラチナ、ニッケル、アルミニウムで、世界トップ3の生産・供給量を有する。特に全世界の約25%の供給量を持つパラジウムは(表2)、需要の約85%が自動車触媒用(表3)。また電気炉に使われる銑鉄では、米国がロシア、ウクライナ両国からの輸入に約7割頼っており、鉄鋼価格高騰の背景として指摘する。
石油や天然ガス、パラジウムなどは経済産業省も先月31日、戦略物資・エネルギーサプライチェーン対策本部で安定供給のための対策を取りまとめた。
自動車メーカーでは、アフトワズ、ラーダを傘下に持つルノー・日産自動車・三菱自動車の3社連合が、ロシア、ウクライナ両国で高い販売シェアを有しており、大きな影響を受けていると指摘する。
アリックスパートナーズ東京オフィスの鈴木智之マネージング・ディレクターは「原材料や部品の調達が喫緊の課題。短期的には調達強化や在庫量増加、インフレ対応に取り組み、長期的には生産フットプリントの最適化やサプライチェーン再構築などでリスク低減を図る必要がある」としている。
※日刊自動車新聞2022年(令和4年)4月4日号より