豊田喜一郎氏ら豊田家以外でエンジニア出身の社長は初めてだ。新車開発で培った知見を生かし、豊田章男社長が進めてきた「商品軸の経営」を引き継ぐ。
普段はスーツよりも「GR」のロゴがあしらわれたブルゾン姿のイメージが強い。「ガズーレーシングカンパニー」のトップとして、常にレース現場を訪れ、エンジニアと膝を突き合わす「現地現物」を地で行く人だ。豊田社長からトップ交代の打診を受けたのも、昨年12月中旬にタイで開かれた耐久レースのサーキット場だった。
ここ数年は、水素エンジン車で挑戦するレース活動で露出も増え、メディア対応も積極的にこなす。トヨタのもう一つの〝顔〟として、情報発信力にも期待がかかる。
他方、「レクサス」事業では、ブランド力を大幅に引き上げた功績者でもある。かつて「退屈」と揶揄(やゆ)されることもあったレクサスのイメージを、開発責任者を務めた高級クーペ「LC」で払しょくした。
レクサス初の電気自動車(EV)専用車「RZ」(試作車)のハンドルを握るマスタードライバーの豊田社長に同乗し、あれこれと意見を交わす姿が印象に残る。「クルマ好き同士」の距離感も、後継者として白羽の矢が立った理由の一つだろう。
2021年末に発表したEV戦略では、レクサスのトップとして「35年に100%EV化」を宣言した。目指すのは「EVでもワクワクドキドキするクルマ」だ。脱炭素化に向けた取り組みが求められる中、水素エンジン車やEVの開発を主導してきた技術者ならではの経営手腕が問われることになる。
(福井 友則)
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)1月28日号より