トヨタ自動車の工場で品質確認のための稼働停止が相次いだ。生産は再開したが、リコール(回収・無償修理)を届け出た「プリウス」は生産停止が続く。トヨタは、持続的な成長を目指すため、あえて開発や生産のペースを緩めているが、販売現場では困惑の声も漏れる。〝成長痛〟を無事に乗り越えられるか。
今年に入り、トヨタは「生産工程の確認作業」を理由に①トヨタ自動車東日本の宮城大衡工場(宮城県大衡村)②岩手工場(岩手県金ケ崎町)③トヨタ車体の富士松工場(愛知県刈谷市)④トヨタの堤工場(同豊田市)の稼働を相次ぎ見合わせた。同じ原因ではなく、例えばトヨタ車体は「ノア/ヴォクシー」の前照灯で基準適合の確認作業のため、稼働を止めたとみられる。生産工程の確認でラインを終日止めるのは珍しく、これほど頻度が多いのは異例とも言える。
この背景には、グループで相次いだ認証不正や品質問題がある。ダイハツ工業や豊田自動織機では、開発日程を厳守し、問題が起きても開発を遅らせるなどの対応を取らない組織風土が不正の遠因となった。このため、トヨタグループでは今、国内生産の日当たり台数を2023年より1千台少ない1万4千台程度に抑え「あえて身をかがめて巡航速度を見つめ直す」(宮崎洋一副社長)取り組みを進める。品質を最優先するために生産ラインを止める「アンドン」を引く頻度も増えているという。
ただ、多くの受注残を抱える販売店にとって生産停止の影響は大きい。特にノアやプリウス、「ヤリスクロス」などは主力車種であり、影響がより深刻だ。トヨタは昨年末、24年の国内販売見通しを160万台と販売店に伝えたが、相次ぐ稼働停止などの影響を踏まえ、150万台に下方修正した。
西日本の販社首脳は、品質優先の取り組みに理解を示しつつ「今の状態がずっと続くようでは困る」と漏らす。別の販社首脳は「想定外の稼働停止が相次いだことで、せっかくの(受注状況を正確に把握できる受発注システム)『J―SLIM(スリム)』もあてにならない」と苦笑いする。この会社では、Jスリムの納期情報をあえて営業スタッフに伝えないようにした。
プリウスのリコールは対策品の準備が整うまでの暫定作業が必要となり「作業が2回発生するので気が重い」「対策品がどれくらいのリードタイムで来るか読めない」(西日本の販売店首脳)などの声も出ている。
中部の系列部品メーカーは「何か異常があったらすぐにラインを止めるというのは、TPS(トヨタ生産方式)の根幹だ」と強調する。それでも、プリウス用部品の生産ラインは一部で止め、従業員には他の仕事を割り当てている。
トヨタは生産だけでなく、すべての新車開発計画を精査し、場合によっては日程を遅らせたり、規模を縮小したりしている。世界的にハイブリッド車(HV)人気が盛り上がる中、少なからず今後の商品計画にも響きそうだが、電気自動車(EV)やSDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)などへのシフトを本格化させる前にいったん立ち止まり、目に見えない〝無理〟や〝風土〟の点検を確実に済ませたい考えだ。
(福井 友則)
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)4月25日号より