トヨタ自動車の好業績を支えているのがハイブリッド車(HV)だ。2024年3月期のHV(マイルドHV除く)販売は、前期から約80万台増えて約355万7千台となり、新車の3台に1台以上をHVが占めた。「ストロングHV」と呼ばれるトヨタのHVは燃費改善効果が高い一方でコストが高かったが、20年以上にわたる原価低減で、今や台当たり利益はガソリン車をしのぐ。このHVの快走で、トヨタの〝稼ぐ力〟が最大限に高まっている格好だ。今後はHVをアジアや新興国にも広め、稼いだ利益を電気自動車(EV)やSDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)などの次世代車に振り向け、さらなる成長を目指す考えだ。
23年度の世界販売は1030万9千台(前年度比7.3%増)と過去最高を更新した。なかでもHV販売は同31.1%増と大幅に伸び、HV比率は前年度から6.3㌽上昇して34.5%になった。
HVは、かつて国内需要が中心で〝ガラパゴス〟と揶揄(やゆ)されたこともあったが、EV販売が先行していた欧米で販売を伸ばす。EVは「アーリーアダプター」と呼ばれる流行に敏感な消費者の需要が一巡したうえ、一部の国では公的補助の縮小も逆風だ。しかし、燃料高は今も続いており、車両価格が手ごろで燃費が良いHVが再評価されている。米国では「カムリ」や「RAV4」、欧州では「ヤリスクロス」や「カローラ」などの販売が好調だ。こうしたHVを多数そろえていることもトヨタが販売を伸ばしている要因の一つと言える。
原価低減も進んだ。「プリウス」の場合、1997年の初代に対し、2022年の5代目はコストが6分の1まで下がった。台当たり利益では、米国向けSUVの場合、ガソリン車に対し、HVは1割ほど上回るという。地道なコスト削減と改良を積み重ねたことでHVの収益力は他社の追従を許さない水準にまで高まった。トヨタは、HV販売をアジアや新興国にも広げ、強みを持つ技術でさらなる販売増を狙う。電気系がリッチなトヨタのHVはプラグインハイブリッド車(PHV)にも適しており、当面は優位な情勢が続きそうだ。
今後は、HVで稼いだ利益を将来に向けた投資にどう充てていくかが焦点となる。EV市場は足元で鈍化しているとはいえ、トヨタの23年度EV販売は11万6千台と振るわない。中長期的なEV市場の拡大を見据え、EVの〝先頭集団〟に入るためには、テスラや比亜迪(BYD)といったEVメーカーに引けを取らない商品力が必須だ。また、スマートフォンのようにソフトウエアがクルマの価値や性能を左右するSDVへの対応も急ぐ必要がある。〝ポストHV〟へと円滑に事業や商品を移行できるかが注目されそうだ。
(福井 友則)
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)5月9日号より