トヨタ自動車は、新型車の開発日程を見直す。進行中の全開発計画を点検し、業務負荷が高いものについては必要に応じて日程を遅らせるほか、プロジェクトの中止も視野に入れる。高水準の車両生産が続く中、部品の調達先を含めた現場が抱える業務負荷の検証も進める。今年4~9月を「踊り場」と定め、これまで気付きにくかった課題を洗い出し、さらなる成長を目指す際に〝綻(ほころ)び〟が起きにくい体制を目指す。
「挑戦の余力づくりと足場固めに本気で取り組む必要がある。まずは2024年前半、一時的に仕事量を減らすことで『踊り場』の期間を設けたい」―。佐藤恒治社長は23年末、従業員に向けてこうした内容の書面を出した。
トヨタは、コロナ禍と半導体不足で生産量が急変動した22年にも、当時社長だった豊田章男会長が「意志ある踊り場」という言葉を掲げた。24年3月期の連結業績予想では営業利益で5兆円に届く勢いを見せる一方、足元ではグループ会社の認証不正が相次ぐ。世界生産1千万台超の世界トップメーカーへと成長する過程で、経営陣や管理職が見過ごしていた歪(ひず)みがさまざまな場所に溜まっている可能性がある。
ダイハツ工業では、車両の安全性に関わる認証試験において、全車種での不正が判明した。奥平総一郎前社長は「身の丈、こなし得る量に対して過度に詰め込み過ぎた」と話した。これを踏まえ、トヨタでも新車の開発計画にメスを入れる。向こう2~3年先の発売を目指して開発中の車両について、現場に余力を生み出すため、必要に応じて日程の延期もしくは中止判断を行う「やめかえ」に着手する。
一方、26年に発売する次世代電気自動車(EV)の開発は計画通りに進める。「26年に150万台」とするEV販売(供給)計画に向け、車載電池工場などへの投資を進めている。航続距離を2倍にする車載電池や、生産工程を革新する「ギガキャスト(大型アルミ鋳造)」などの開発を進めるが、EV以外の「やめかえ」で生み出した余力を次世代車の開発に充てる考えだ。
部品調達先を含め、生産現場に余力を生み出す取り組みも始める。23年の世界生産は1003万台と初めて大台を超え、国内では日当たり1万5千台近くのフル稼働状態が続く。しかし、24年4月以降は日当たり1万4千台まで下げ、余力を生み出すことで品質の向上につなげる。部品の調達先についても、トヨタと同様の点検作業を促す。トヨタの熊倉和生調達本部長は「個別の重なりが全体になる。個別に見て無理があれば直していかないといけない」と語る。
年間生産が1千万台を突破し、世界トップメーカーとして国内の自動車産業もけん引するトヨタ。かつて「1千万台クラブ」のシェア争いを繰り広げたゼネラル・モーターズ(GM)やフォルクスワーゲン(VW)も達成できなかった大台だが、長田准執行役員は「トヨタもリーマンショック前に(1千万台に)近づいた時に(赤字になって)潰れかけた」と振り返る。
奇しくも大台突破前後のタイミングで発覚したグループの不正は、あたかも成長のひずみが噴出したかのようにみえる。熊倉本部長は「仕入先に高い水準を継続できるかと聞くと『できる』と答える。ただ『現実として無理しているところもあるのでは』とわれわれが感じることが大事だ」と話す。
世界26カ国・地域に工場を持ち、170以上の国・地域で1千万台超の車両を販売するトヨタ。持続的な成長を目指すため、グループ会社や仕入先といったん立ち止まり、基盤固めに入る。
(福井 友則)
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)3月1日号より