電気バス(EVバス)の普及に向けて国内外のメーカーが車両開発や市場投入を急ぐ中、導入に向けてバス事業者間の温度差が表面化している。国内EVバス市場では中国・比亜迪(BYD)製車両がトップシェアを有し、全国の民間バス事業者や自治体で導入の動きが広がる。一方、車両の選択肢が増えるまでは状況を静観する事業者も少なくない。環境対応と運行の安心・安全の確保との間で揺れる事業者の不安をどのように払拭するかが、普及に向けた課題となっている。
BYDの日本法人ビーワイディージャパン(劉学亮社長、横浜市神奈川区)は今月、大型車「K8」と小型車「J6」を刷新して予約受け付けを開始した。日野自動車もBYDからOEM(相手先ブランドによる生産)供給を受ける小型バス「ポンチョZ(ズィー)EV」を今年度内に発売するとしている。
BYDジャパンは2015年に京都府内の路線バスとしてEVバスが採択されたことを皮切りに21年末までに累計64台を納入しており、年内には100台に達する見通しだ。明確な競合メーカーが存在しない中で「国内シェアは約7割」(花田晋作副社長)と、小規模ながら業界1番手としての地位を固めつつある。さらに、30年には累計販売台数4千台とする青写真を描いている。日野も歴代ポンチョシリーズで、コミュニティーバスなどでの導入実績を重ねており、全国に有するアフターサービス網と組み合わせることで自治体などを中心に引き合いが強まると見られる。
一方、EVバスの導入に二の足を踏む事業者もある。東日本のある自治体の担当者は「アフターサービス体制や利用者心理を考慮すると、外国メーカー製のEVバスを導入することは難しい」と明かす。「導入するならば国産車が前提だが、メーカーの開発計画が具体化しない以上動けない。環境対応車としては、既に上市されている燃料電池車が現実的な選択肢になる」と現状を説明する。関東圏の民間バス事業者も「SDGs(持続可能な開発目標)への対応を会社として掲げる中でいずれはEVを入れるだろうが、コストが膨らめば意味がない。車両更新時期から逆算しながら、慎重に見極めていく必要がある」としている。環境対応への圧力が高まる一方、直ちにEVバス導入には踏み切れないさまざまな事情から、板挟みに遭っているのが実態だ。
販売元もこうした市場環境に気を配る。BYDジャパンの花田副社長は「従来の内燃機関車と同様の使い勝手とすることが不可欠だ」と話し、ボディーサイズやドア位置などの使い勝手はもちろん、EVならではの部品点数の少なさやシンプルな構造を生かした整備性の高さでも既存の車両に劣らないと訴える。課題となるアフターサービス体制も、年内に北海道、九州に直営拠点を新設することで底上げを図る構えだ。
いすゞ自動車と日野は新型EVバスの生産を24年に開始する計画を打ち出すなど、日本勢も市場開拓に向けて歩みを進める。純「国産」EVバスが市場形成の本命となるのか、先行する海外メーカーに独走を許すのか、カギを握るのは日々の安全運行を担う事業者の判断となりそうだ。
(内田 智)
※日刊自動車新聞2022年(令和4年)5月21日号より