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自動車業界トピックス

ビッグモーター、整備工場の約15%で「指定取消」

売却価格に影響の可能性も

川崎店の建物には閉店を知らせる張り紙があった

自動車保険金の不正請求問題を起こしたビッグモーター(和泉伸二社長、東京都多摩市)で、国土交通省から「指定自動車整備事業の指定の取消」という一番重い行政処分を受けた整備工場が1月末までに19カ所となった。同社の工場数全体の約15%に上る。国交省はこのほかの工場でも調査を継続しており、2023年度末までに追加の処分を公表する方針で、さらに増える可能性が高い。同社については伊藤忠商事と伊藤忠エネクス、投資ファンドの3社連合が買収に向けた資産査定(デューデリジェンス)をしているが、車検ができない拠点が増えれば売却価格に影響しそうだ。

国交省によると23年7月時点で、ビッグモーターの工場は134カ所(現在は128カ所)あった。このうち34工場に一斉立ち入り検査に入り、10月に12工場を指定取消にした。立ち入り検査前に、2工場が同じ処分を受けていたほか、地方運輸局や運輸支局を含めて残る約100工場も監査。関東、中部、九州の工場で処分が公表された結果、これまでに19工場が指定取消となった。さらに、23年度末までに西日本(九州除く)の検査分が公表される可能性が高い。

指定取消の処分を受けると、少なくとも2年間は車検ができず、運輸支局などに車両を持ち込むなどして受検する必要がある。整備業務の効率が悪化するため、拠点としての価値が低下する。伊藤忠など3社連合は今春までに、買収するかどうかを決める。3社連合は指定取消の工場がどれくらいになるのかをある程度確認、推測した上で買収金額を決めることになる。

国交省の自動車整備課によると、指定取消になると2年間は再申請ができない。さまざまな条件を満たし、再申請した場合でも、手続きには1カ月から1カ月半かかるという。さらに、指定工場になるには「管理組織」として適正かを審査する項目もあり、厳しく評価されるという。「国に代わって車検を行うという仕組みのため、いい加減な組織のままだと国の代理として認めるわけにはいかない」(国交省)ということだ。このため、処分を受けた工場がスムーズに車検事業を再開できるかは不透明だ。車検は大きな収益を生むだけに、ビッグモーターの損益に与える影響は大きい。

日系・外資系投資銀行部門などでM&A(合併・買収)案件に数多く関与してきた公認会計士の久禮義継さんは、「3社連合は工場などの拠点すべてを買収することを絶対条件と考えていないのではないか」とみる。ガソリンスタンド、新車・中古車販売、レンタカーも手掛ける伊藤忠エネクスと、事業がかぶるエリアもあるため、すべてを買う必要はないからだ。特に、同業他社や事業内容が近いM&Aでは論点になることが多いという。もし、全拠点を買うとしても、2年間車検ができないと「その分『売却価格の減額交渉』の材料となるのは避けられない」と、久禮さんはみている。

かつては30カ所以上あった板金工場も、不祥事で約半分の16カ所になった。中古車の販売や整備、保険、板金などをカバーする「ワンストップサービス」が売りのビッグモーターの機能も落ちている。300店以上をうたった店舗数も現在は248店になり、「改装」名目で休止中の店舗も8店ある。このままの状況が続けば、さらに価値が目減りしかねない。

また、1月30日にはビッグモーターの社員が初めて逮捕された。全国の店舗前の公道で街路樹が枯れたり、切られたりした問題で、川崎店(川崎市川崎区)に伐採を指示したとして、当時本社勤務の社員(51)を器物損壊容疑で神奈川県警が逮捕した。同店の元店長と元従業員の2人も同容疑で書類送検された。一連の問題では自治体などから警察への被害届は全国20都道府県で計51件。このうち東京、神奈川、山口、愛媛の4都県では計12件の刑事告訴も受理している。ビッグモーター創業家の兼重宏一元副社長の都内の自宅も23年12月に警視庁と神奈川県警が家宅捜索したとされる。

伊藤忠商事の岡藤正広会長CEO(最高経営責任者)は、ビッグモーターを買収することで伊藤忠商事の信用に大きく影響すると判断すれば、買収を見送ることもありえるとの方針を示している。3社連合がどのような判断を下すか、注目されている。

(小山田 研慈)

※日刊自動車新聞2024年(令和6年)2月9日号より