自動車メーカー系の整備専門学校で、2024年度の学費の対応が分かれている。トヨタ自動車の直営校が値上げを決める一方、ホンダ学園(高倉記行理事長、埼玉県ふじみ野市)と日産学園(神田昌明理事長、横浜市旭区)は据え置くことを決めた。物価高や猛暑の影響で光熱費が上昇し、各校の運営に影響が出ている。経費削減などで補えない分の転嫁と、値上げせずに新入生の確保を優先する学校との判断に差が出た格好だ。ただ、どの学校も足元のコスト高は重荷であることに変わりはなく、25年度以降は値上げの動きが広がる可能性がある。
トヨタ東京自動車大学校(上田博之校長、東京都八王子市)は24年度、全学科の学費を前年度比4万円増とする。国家二級自動車整備士の資格取得を目指す「自動車整備科」の学費は、年間108万円となる。学費全体の約半額を占める授業料を据え置くものの、実習費や施設設備費を増額する。トヨタ名古屋自動車大学校(永田透校長、愛知県清須市)は、国家一級課程の「高度自動車科」を23年度に比べて6万円、二級課程の自動車整備科で2万円を値上げする。トヨタ神戸自動車大学校(鈴木二郎校長、神戸市西区)も高度自動車科で約6万円、自動車整備科で2万5千円ほど増額する。
トヨタ直営校が相次いで値上げを決めた背景には、光熱費など学校の運営にかかるコストの上昇がある。さらに、トヨタ神戸自大の鈴木校長は「教員を確保する上でもまとまった人件費が必要」とし、足元で広がる教員不足への対応も負担になっていると明かす。
各校ではこれまで、さまざまなコスト抑制策に取り組んできた。例えば、トヨタ神戸自大では、校内のペーパーレス化を推進。学生に配布する資料をデジタル化し、スマートフォンやタブレット端末で確認できるようにした。今の学生はこうした電子機器に慣れ親しんでおり、鈴木校長は「テスト前になるとスマホなどを手に勉強している」と、学生にスムーズに受け入れられているという。今回、こうした努力を上回る経費上昇のため学費を値上げするが、教育環境のさらなる充実を併せて進めることで、新入生に値上げへの理解を求める考えだ。
一方、ホンダ学園と日産学園は値上げに慎重な姿勢をみせる。埼玉県と大阪府で「ホンダテクニカルカレッジ」を運営しているホンダ学園は、24年度の学費を23年度と同額に据え置く。日産学園も全国5府県にある日産・自動車大学校(本廣好枝学長)も同等の水準を維持する。
ただ、日産京都自動車大学校(川嶋則生校長、京都府久御山町)と、日産愛媛自動車大学校(髙橋照雄校長、愛媛県松山市)では、外国人留学生の専用学科で3年間の学費を10~15%程度減額する方針だ。経済状況が厳しい留学生も少なくないため、学費を値下げして経済的負担を軽減し、入学促進や中退防止につなげる考えだ。
24年度は対応が分かれたが、25年度以降は値上げの動きがトヨタ直営校以外にも広がることが想定される。ホンダ学園の中嶋歩常務理事は、「今後は値上げを本格的に視野に入れざるを得ない」としている。この一因として、「今夏の猛暑で、冷房をフル稼働させたため、特に負担が増えている」と打ち明ける。日産自大の本廣学長も「さまざまな費用が上がる中、このまま据え置けるかは分からない」という。
整備学校にとって、学費は収入源の大部分を占める。しかし、少子高齢化の影響などで、入学者数はかつてに比べて減少傾向にあることから、そもそも学費の取り扱いについて各校は頭を悩ませていた。学費を上げれば、新入生の確保に支障を来す恐れがあるためだ。ただ、あるメーカー系整備学校の幹部は「トヨタが値上げしたことで、値上げへの心理的なハードルが下がった」としており、学費をめぐる各校の駆け引きが活発になりそうだ。
(諸岡 俊彦)
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)9月26日号より