自動車メーカー系の整備専門学校で、一級自動車整備士の養成課程の人気が高まっている。トヨタ東京自動車大学校(上田博之校長、東京都八王子市)の「1級自動車科」は今春の入学予定者数が2006年の開設以降初めて、120人の定員を上回る見込み。日産・自動車大学校(本廣好枝学長)も22年度、系列5校の一級課程への入学者数が196人と前年実績に比べて1割以上増加した。少子高齢化などの影響で整備学校の進学者自体は減少している。こうした中で、加速する技術進化に対応できる高度な技能を身に付けようと、一級課程を選ぶ学生が増えているとみられる。
トヨタ東京自大は23年春の入学予定者のうち、1級自動車科でわずかではあるものの定員超えを実現できる見通しとなった。ここ数年の入学者数は100人程度と定員を下回る状況が続いていたが、今回、「おそらく初めて」(上田校長)という悲願を達成した。
日産・自大も「多くの学生に一級を取得してもらいたい」(本廣学長)との考えから、一級課程の募集に力を入れている。これが奏功し、22年度の入学者増につながった。ホンダテクニカルカレッジ関東(勝田啓輔校長、埼玉県ふじみ野市)も一級課程の進学者が目立っており、「グレードの高い資格を取ろうという考えがあるのでは」(勝田校長)と分析している。
一級の志望者が増加する背景には、整備業界が直面するさまざまな技術革新が大きい。さらに、国土交通省も電動車時代を見据え、整備士資格の新制度を27年1月の施行を決めるなど抜本的な制度の見直しを進めている。これまで整備の実務は二級で十分との認識が一般的だったが、将来的に資格制度のあり方が変わる可能性も出ている。日産・自大の本廣学長も「今後は一級と二級の違いがより大きくなる」との見方を示す。こうした構造変化も視野に、今のうちから高度な一級を目指す動きが加速していることも想定される。
一方、全体の入学者数がしぼむ中、学生の一級志向が高まることで「二級課程を選ぶ学生が減っている」(トヨタ東京自大の上田校長)との課題も出ている。こうした実情に合わせ、学校側も今後、各課程の割り振りを見直すなどの対策に迫られそうだ。また、一級課程は「4年制(二級は2年)となるため、学生や家庭の経済的負担が大きく、どのようにサポートしていくかも必要になる」(ホンダテクニカルカレッジ関東の勝田校長)とも指摘する。優秀な整備士をディーラー各社に送り出すため、今後も各校にはさまざまな取り組みが求められそうだ。
(諸岡 俊彦)
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)3月1日号より