長らく縮小均衡が続いてきた国内の二輪車市場に明るい兆しが見え始めた。昨年の新車販売台数は約41万6千台と6年ぶりに40万台超えとなった。コロナ禍で二輪の機動性が再注目されたほか、若者や女性など新規ライダーの増加も好材料だ。ただ、日本自動車工業会(自工会)の日髙祥博副会長兼二輪車委員長(ヤマハ発動機社長)は「何もしなければ業界の盛り上がりは、もってあと1年くらいだろう」と冷静にみる。二輪車政策を策定した経済産業省の応援も得て、自工会は普及を阻む課題の解決を急ぐ。
2021年の二輪車販売を車種別に見ると、原付1種(排気量50cc以下)は減少したが、仕事や日常生活の移動で使用されることが多い原付2種(排気量51~125cc)は12万6千台(前年比23.5%増)、趣味やレジャーで使用されることが多い小型二輪(排気量126~250cc)が8万4千台(同24.0%増)と、ともに大幅増だ。供給制約がなければさらに販売は伸びたとみられる。
活気づく市場を支えるのが若者や女性といった新規ライダーだ。二輪免許の取得者数(大型二輪、普通二輪、原付の合計)は19年から3年連続で増えており、21年は38万1974件(同10.2%増)になった。大型二輪、普通二輪の新規取得者数に占める20歳代女性の比率は、15年の約14%から約16%に、30歳代女性の比率は約12%から約16%にそれぞれ上昇した。
国内の二輪車市場では、1970年代後半の「ナナハン(750cc)クラス」や、80年代中盤の「レーサーレプリカ」、90年代後半の「ビッグスクーター」など、商品軸のブームが何度が起きた。
約20年ぶりに訪れた活況について、自工会で二輪車企画部会の委員を務める大野匠氏は「今のブームは、ライフスタイル軸で起きている」と分析する。アウトドアなど好きな趣味と二輪車を組み合わせて楽しむとともに、SNS(交流サイト)でその楽しさを発信することで輪が広がり、新規需要につながる好循環だ。
久しぶりのブームに沸く二輪車業界だが、課題もある。その一つが二輪向け駐車場の不足だ。
駐車場不足が顕在化したのは2006年頃。若年層を中心にビッグスクーターやストリートバイクの市場が盛り上がっていたが、当時は駐車場法で自動二輪車の明確な規定がなかった。道路交通法の改正で四輪とともに二輪の駐車取り締まりが厳しくなると〝駐車難民〟が続出し、ブームは一気にしぼんだ。
それ以降、自工会は政府への働きかけを本格化する。その成果もあり、二輪駐車場の整備は徐々に進んできたものの、自工会の21年調査では、東京23区内のライダーの51%が「駐車場に困った経験がある」と回答した。「マナーの良い若年層のライダーが増えている」(大野氏)だけに、二輪車の利用に水を差さないよう、駐車場の整備をさらに急ぐ必要がある。
自工会は今後、東京都をはじめとする自治体との連携を強化し、環境整備を加速する。二輪車業界として、駐車場の設置目標もまとめたい意向だ。
半導体不足による納期の長期化や、教習所の受け入れ能力不足など、今は個社の努力だけでは解決し難い課題もある。ただ、日髙副会長は「せっかく乗り始めてもらった人達に、とにかく楽しんでもらう」と話す。経産省も「30年のありたい姿」として、国内の二輪車販売を100万台規模に復活させる構想を描く。
今のブームを100万台に向けた足かがりとするのか、それとも一過性で終わらせるのか。ここ1~2年の取り組みが国内二輪車市場の将来を左右する。
(水鳥 友哉)
※日刊自動車新聞2022年(令和4年)11月7日号より