自動車リサイクル業界の景気を左右しかねない使用済み自動車の発生台数が、一段と低迷している。自動車リサイクル促進センター(JARC、細田衛士理事長)によると、2023年1~6月は前年同期比約5.3%減の約140万台にとどまり、すべての月で前年実績を下回った。発生台数は22年も大きくマイナスに振れており、多くのリサイクル事業者は長引く落ち込みに「コロナ禍前の台数にはもう戻らないのでは」とため息をつく。こうした状況の中で、各事業者は仕入れのポイントを台数から重量に切り替えるなど、さまざまな工夫を凝らして業績拡大に取り組んでいる。
使用済み車の発生台数の低迷は、コロナ禍で生じた新車の供給遅れが背景にある。JARCによると、23年1~6月の発生台数は、コロナ禍の影響がなかった19年の同時期に比べて約2割減少した。加えて、最近では登録車に比べて部品取りできる
量が少ない軽自動車の入庫も増加傾向にあることも悩みの種となっている。中古車オークション(AA)での使用済み車の仕入れ競争も厳しくなっている。関東地方のリサイクル事業者のリバー(松岡直人社長、東京都墨田区)の浅野晃可執行役員は「AAに流れる使用済み車を、外国人の買い手が高値で購入するケースも多い」と危機感を募らせる。
日を追うごとに、競争環境が激化する中、リサイクル事業者ではこれまでの台数重視の方針を改める動きが広がっている。イワマワークス(岩間優社長、静岡県富士市)は、1台の車両に再販可能な中古部品がどの程度搭載されているかを重視している。高年式の事故車や海外で人気の商用バンなど、中古部品のニーズが高い車両の仕入れに力を入れている。CRS埼玉(加藤一臣社長、埼玉県川越市)は、1台ごとの精緻な解体に力を注ぐ。「台数を追い掛けると、解体現場で働くスタッフの意識が数をこなす方に向きがち」(加藤社長)になるためで、丁寧な作業を通じて質の高い中古部品を生み出す狙いだ。
軽の使用済み車の入庫が増加していることも、台数重視からの方針転換に迫られている理由の一つだ。新車や中古車で軽のシェアが拡大する中、各地のリサイクル事業者でも使用済み車の入庫に占める軽の割合が急上昇している。リバーでは入庫の約半数を軽が占めており、「10年前の2倍程度になっている」(浅野執行役員)という。CRS埼玉も入庫した乗用車に占める軽の割合がここ数年で登録車を上回った。
CRS埼玉ではこうした傾向を受け、2年ほど前からトラックなど大型車の入庫に力を入れている。その一環として、工場の天井に可動式クレーンを設置し、重い車両も動かしやすくして生産性を高めている。社員にも重量重視の仕入れに改めるよう、意識改革にも取り組んでいる。
一方、円安や鉄スクラップ価格の高騰など、リサイクル事業者には追い風が吹いているのも事実だ。中古部品の輸出を手掛ける事業者の中には、輸出向けコンテナの出荷本数がコロナ禍前より減らしても、円安の影響で売り上げが伸びた事例もある。しかし、為替や相場価格は先を読みづらく、一気に反転することも起こり得る。このため、「中古部品の国内販売が軸であり、今後も変えるつもりはない」(イワマワークスの岩間社長)と、中古部品の収益力を高めることで強固な経営基盤づくりに取り組む事業者も少なくない。各社は今後も、生産性を高めるさまざまな試みを取り入れながら、足元の厳しい局面を乗り越えようとしている。
(諸岡 俊彦)
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)8月16日号より