自動車リサイクル業界を取り巻く環境が厳しさを増している。使用済み自動車の発生台数の減少が長期化しているほか、リサイクル部品を梱包する段ボールの価格や運送費も上昇傾向でリサイクル事業者に追い打ちをかけている。事態打開のめどは立っておらず、各社が頭を悩ませる状況は当面続きそうだ。
自動車リサイクル促進センター(JARC、細田衛士理事長)によると、7~9月の使用済み車の発生台数は約20万~23万台で推移した。特に、8月は前年同月比約15%減の約20万3千台で、JARA(東京都中央区)の矢島健一郎社長は「21万台を下回るのはあまり記憶にない」と衝撃を受ける。各事業者からは「通常時に比べて3~4割減った」とのため息が漏れる。入庫のハードルが上昇する中で、中古車オークション(AA)で仕入れを増やす事業者が多く、コストの上昇も重荷になっている。
日本自動車リサイクル機構(JAERA、酒井康雄代表理事)が3カ月に1度のペースで実施している会員企業向けの景況調査でも、厳しい回答が並ぶ。7~9月期の調査では景況を「良い」と答えた割合から「悪い」の割合を差し引いた景気動向指数(DI値)が、前期(4~6月期)比マイナス62.9となり、過去最低を更新した。経営課題についても、仕入れ価格の上昇を挙げたのが27.5%と4期連続で1位となり、仕入れ環境の悪化を裏付けている。
さまざまな分野で進む物価の上昇も、各事業者の負担が増す要因にもなっている。代表的なのが、リサイクル部品の発送に必須となる段ボール価格や運送費の高騰だ。ただ、資材や運送コストの価格改定が続く中でも、各事業者でリサイクル部品を値上げする動きは目立っていない。リサイクル部品は、新品と比べて低価格なことが魅力の一つ。JAERAの酒井代表理事(京葉自動車工業代表取締役)は「経費が上がったから部品を値上げするのは違うのではないか」とし、「他の経費を削ることに努力したい」と、さらなる効率化に取り組む考え。他の事業者からも「新品なら分かるが、リサイクル部品を値上げすればさらに売れなくなる」との声も上がる。東日本資源リサイクル(千葉県富津市)の中本富吉社長も「当社だけが値上げするのは勇気が必要」と、価格見直しの難しさを指摘する。
しかし、物価上昇が進むことが、リサイクル部品の販売拡大にとって追い風となる可能性もある。消費者が財布のひもを引き締める動きを強めれば、低価格なリサイクル部品を求めるユーザーが増えることも考えられる。「とにかくモノ(使用済み車)がない状況だが、リサイクル部品の需要は高い」(JARAの矢島社長)状況であり、各事業者は1台の使用済み車から取る部品を増やすことに努力するなどして、供給力を高めていく考えだ。
(諸岡 俊彦)
※日刊自動車新聞2022年(令和4年)11月11日号より