介護業界で電動車への関心が高まっている。2024年4月から災害などを想定した事業継続計画(BCP)の策定が義務づけられる中、停電時に電動車のバッテリーを活用できるためだ。一般的な発電機と違って排ガスを出さず、一酸化炭素中毒の心配がない。介護業界を所管する厚生労働省も電動車の活用を例示しており、介護事業者からの引き合いが増えつつある。
「FF(前輪駆動)でも思っていた以上に安心感がありますね」―。北海道千歳市の泉沢向陽台で開かれた電気自動車(EV)の試乗会。参加したのは、近隣で介護施設などを運営する事業者の責任者や担当者ら約20人だ。1970年代後半から開発が始まったこの街は、訪問介護やデイサービスを利用している高齢者が多い。試乗会を開いた日本カーソリューションズ(NCS、髙島俊史社長、東京都千代田区)によると、こうした催しで、20人規模の人数が集まることはこれまでになかったという。
介護事業者が電動車に関心を示す背景にあるのがBCP策定の義務化だ。厚生労働省は、21年度の介護報酬改定で、台風や集中豪雨などの災害を想定したBCPの策定や研修、訓練の実施を義務づけた。24年3月末までの経過措置を経て同年4月から義務化がスタートする。厚労省が示したガイドラインには、停電時の対策として「自動車のバッテリーや電気自動車の電源を活用することも有用である」と記載された。介護施設は空調や事務機器などに加え、痰の吸引器や人工呼吸器などの医療機器もあり、電力確保は大きな課題だ。
給電機能のある電動車は、発電用燃料を別に保管する必要もなく、電力を迅速に取り出せる。寒冷地防災に詳しい日本赤十字北海道看護大学の根本昌宏教授によると「EVは(発電機と違って)一酸化炭素中毒の危険性もなく、電力を取り出しやすい」と利点を説明する。
試乗会では、NCSの担当者がBCP対策にEVを活用することのメリットなどを説明。「リーフ1台と同等の蓄電池を用意し倉庫に眠らせておくより、普段使いできるEVを非常用電源とした方が資金効率も良い」などと説明した。介護事業者のBCP策定を支援する「千歳市向陽台区地域包括支援センター」の吉田肇センター長は「災害時におけるEV、PHVの有用性の高さは聞いている。一部の事業者だけでも導入できれば緊急時に共有できる」と語った。
試乗会に協力した日産自動車販売(須山義弘社長、東京都港区)札幌支社によると、21年度の介護報酬改定後から介護事業者からEVの問い合わせが増えているという。「リーフ」よりも価格が手ごろな軽EV「サクラ」が発売されたことで、関心は一層高まっているようだ。
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)2月1日号より