ビッグモーター(和泉伸二社長、東京都多摩市)の買収に向けて資産査定(デューデリジェンス)を進めている伊藤忠商事、伊藤忠エネクス、投資ファンドの3社連合。中核の伊藤忠商事の狙いは、整備や中古車、部品・用品など自動車アフターマーケットでの事業拡大だ。矢野経済研究所によると市場規模は約20兆円(2022年)と大きく、景気に左右される新車販売と違って安定的なのが特徴。中古車大手のビッグモーターが加われば、アフター領域で大幅に戦力を補強できる。3社連合は買収について、今春までに結論を出す方針だ。
伊藤忠商事と伊藤忠エネクスは23年9月、リース車両のメンテナンス受託管理事業のナルネットコミュニケーションズ(鈴木隆志社長、愛知県春日井市)に対し、特別目的会社(持株会社)を通じて36%を出資した。その際、「進化する自動車の多種多様な整備に対応可能な体制を構築し、アフターマーケットの事業拡大に取り組む」と表明するなど、アフター事業を重要視している姿勢を裏付ける。ナルネットは全国1万カ所を超える整備工場と提携。数万台の管理車両を持ち、詳細な整備費用データを持っているのも伊藤忠商事にとって魅力だった。
欧州では11年に買収したタイヤ小売りや車両の整備も手掛けるクイック・フィット社が、業績を伸ばしている。同社の持株会社ETELの純利益は22年度が44億円だったが、23年度はそれを上回る見込み。現在、英国内に720店、オランダに約160店がある。欧州市場で普及が進む電気自動車(EV)用タイヤを取り扱っているほか、グループで使用済みタイヤや中古タイヤの再生、リサイクル事業も行っている。これらのノウハウを、国内事業に反映することも検討している。
また、国内では保険代理店として全国700店舗以上を抱える、ほけんの窓口グループ(猪俣礼治社長、東京都千代田区)のほか、ニッポンレンタカーサービス(藤原徳久社長、東京都千代田区)も傘下に持つリース大手の東京センチュリーにも出資するなど、金融商品もカバーしている。
一方、エネルギー商社の伊藤忠エネクスは、全国に1600店舗以上のガソリンスタンド(給油所)網を持つ。530店舗の給油所で中古車レンタカー事業「カースタレンタカー」を運営している。ビッグモーターの買収が実現すれば、将来的に車両のやりとりをする可能性もある。
また、関西では、100店舗を持つ日産大阪(小林恭彦社長、大阪市西区)に加え、中古車オークション(AA)事業も行っている。
自動車アフターマーケット関連のビジネスは、国内の保有台数の約7800万台が対象で、多くの顧客を見込める。①中古車②賃貸事業(リース、レンタカーなど)③部品・用品④整備事業⑤その他サービス(保険、ロードサービス)―などが主な領域で、伊藤忠グループはすでにこれらの分野で活動する企業が関係先となっている。全国に250店舗を持つビッグモーターの基盤が手に入れば、さらに深いアプローチや新たなビジネスを生み出しやすくなりそうだ。
伊藤忠商事は一般消費者に近い「非資源分野」で収益を高める事業に力を入れている。実際、22年度の純利益(約8000億円)のうち、7割強を同分野で稼ぐ。また、同社は非資源以外も含め8つの「カンパニー」があり、連結で約270社の事業会社で構成しており、事業会社のうち8割強が黒字だ。数十億円の利益を稼ぐ、事業会社を確実に増やしていくことを大きな方針にしており、ビッグモーターもこの1社としたい考え。ただ、伊藤忠商事の岡藤正広会長CEO(最高経営責任者)は、買収が実現した場合、社名を変更する意向も明らかにしている。
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)2月6日号より