国土交通省がビッグモーター(和泉伸二社長、東京都多摩市)の34整備事業場に対し、道路運送車両法に基づく行政処分に踏み切る。「組織的関与」を一部で認定しており、残る101整備事業場も含め、追加の行政処分を受ける公算もある。国の認可が必要な整備事業場が使えなくなることは、同社が支援を要請している企業による資産査定などにも影響が出そうだ。
国交省は先週13日、同社の34事業場に対する行政処分案を公表した。対象は7月28日に一斉立ち入り検査を実施した事業場で、すべての事業場で同法違反を確認した。
行政処分案では、34事業場すべてで一定期間の事業停止とする。指定工場の認証を持つ32事業場のうち、12事業場を指定整備事業の「指定取消」、11事業場を一定期間の車検業務停止とする。20日に予定する同社への聴聞を踏まえて正式決定する。仮に処分案の通りなら、同社が今年に入って指定取消を受けた事業場は熊本県と栃木県の事業場を合わせ14事業場になる。
確認された不正事案では、「速度計誤差の検査未実施」などが複数の事業場で共通している。間違った整備作業指示書をもとに作業を実施していたことも確認された。国交省関係者は「法令順守に欠けている会社だ」と指摘する。
処分案を決めるにあたり、国交省は「法令違反の内容について社会的影響などが大きい」として、違反点数を2倍に加重する規定を適用した。残る101事業場それぞれにおいて、同法違反の事実を確認した場合、今回と同様に加重規定を適用するのかも焦点になる。
指定取消の行政処分を受けると、工場で自動車検査(車検)が完結できなくなる。運輸支局への持ち込み受検により整備事業は続けられるが、手間やコストがかさんで採算は悪化する。指定取消から2年後に再び指定取得の申請は可能だが、審査は一段と厳格なものになるという。
同社に関する不正事案は、自動車保険金不正請求問題や不正車検問題にとどまらない。車両販売・買い取りや自動車ローン販売における顧客への不正・詐欺行為などの疑いも指摘されている。金融庁など他省庁の検査の結果次第では、各事業場でさらなる行政処分や刑事告発などが行われる可能性もある。
ビッグモーターはオリックスなど複数の企業に支援を要請しているが、こうした行政処分リスクが見通せず、支援企業が決まるまでには時間がかかるとみられる。
◇
ビッグモーターの34整備事業場に対する行政処分などの主な内容は次の通り。
▽札幌清田店=事業停止20日▽ひたちなか店=同15日、指定取消▽石岡店=同15日、文書警告▽つくば店=同40日、車検業務の停止70日▽栃木店=同15日、文書警告▽前橋店=同10日、指定取消▽浦和美園店=同75日、指定取消▽熊谷店=同90日、指定取消▽酒々井店=同55日、指定取消▽多摩店=同60日、文書警告▽甲府店=同40日、指定取消▽新潟南店=同15日、指定取消▽野々市店=同10日、車検業務の停止20日▽福井店=同20日、指定取消▽浜松南店=同60日、指定取消▽名古屋茶屋店=同35日、指定取消▽彦根店=同15日、車検業務の停止150日▽京都伏見店=同25日▽天理店=同35日、車検業務の停止110日▽倉敷水島店=同25日、文書警告▽下関営業所=同15日、文書警告▽宇部営業所=同15日、文書警告▽周南営業所=同15日、文書警告▽高松店=同15日、車検業務の停止40日▽平井店=同15日、文書警告▽春日営業所=同25日、指定取消▽八幡営業所=同30日、車検業務の停止40日▽西福岡店=同25日、車検業務の停止70日▽小倉西港店=同20日、車検業務の停止180日▽筑後店=同30日、車検業務の停止20日▽古賀店=同20日、指定取消▽多良見店=同20日、車検業務の停止40日▽宇土店=同20日、文書警告▽鹿児島店=同20日、車検業務の停止30日
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)10月17日号より