国土交通省は、事故車修理における消費者保護と車体整備事業者のコンプライアンス(法令順守)確保に乗り出す。ビッグモーター(和泉伸二社長、東京都多摩市)が保険金請求に際し、わざと車体を傷つけたり、不必要な作業で支払い保険金をつり上げていたことなどが社会問題化したため、自動車業界全体の信頼回復を急ぐのが狙いだ。車体整備の業界団体などを交え、指針などの具体策づくりを急ぐ。
衝突被害軽減ブレーキなどを扱う「特定整備」など一部を除き、板金・塗装などの車体整備事業は、道路運送車両法上の安全規制の適用外だ。ただ、自動車整備業との兼業も多く、自動車の安心・安全を確保する関係上、国交省はこれまでも車体整備業界と勉強会を開くなどして業界の技術対応や人材育成を後押ししてきた。
国交省は、ビッグモーターに対して厳しい行政処分に踏み切る一方、車体整備を含む自動車業界全体の信頼回復には、工程や作業料金などに関する透明性を確保する取り組みが欠かせないと判断した。具体策はこれから検討するが、入庫客への作業内容の丁寧な説明や、損傷部における作業前後の画像保存など、ハードとソフトの両面で、実効性を担保しつつ、事業者の過度な負担とならないような方策を練る。
業界や企業も信頼確保に長年、取り組んできた。日本自動車車体整備協同組合連合会(日車協連、小倉龍一会長)は、法令順守の啓発活動の一環として「コンプライアンスマニュアル・チェックシート」を作成し、組合員に活用を促している。損害保険各社でも、デジタル技術を活用した査定体制の強化を進めている。損保会社などから事故車修理を請け負うDRPネットワーク(津島信一代表、東京都葛飾区)やブロードリーフなどでも、業務支援システムなどの機能拡充などを通じ、加盟店や取引先企業の法令順守やガバナンス(企業統治)の強化を支援する動きを進めている。
しかし、中古車業界で急成長してきたビッグモーターによる悪質な不正事案が連日のようにメディアで報じられ、消費者の業界に対する信頼は大きく揺らいだ。国交省としては、再発防止の狙いも込めて車体整備業の改善対策を急ぐ。
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)11月28日号より