国内市場で新型電気自動車(EV)の投入が加速する。外国メーカー車では、メルセデス・ベンツやアウディといった独プレミアムブランドが相次いで新型車の投入を予定し、ラインアップ拡充を急ぐ。ステランティスもフィアットブランド初のEV「500e」を発表した。トヨタ自動車や日産自動車をはじめとした国内メーカーも新型EVの発売を予定しており、EV市場活性化の機運が高まっている。
国内のEV市場は年間2万1139台(2021年)で、このうち海外メーカー車が4割超を占める。登録車全体に占める輸入車の割合が1割弱なのに比べ、EVでは輸入車の存在感が高い。EVで先行したテスラのシェアが高いとみられ、他のインポーターも相次いで新型車を投入し、シェア拡大を急ぐ。
メルセデス・ベンツ日本(上野金太郎社長、東京都品川区)は、2022年内に「EQ」シリーズを3車種発売する。セダンタイプの「EQS」「EQE」、SUV「EQB」を投入する。すでに販売している「EQA」と「EQC」の2車種で、昨年の販売台数は前年の3・4倍に当たる1100台だった。3車種を新たに加え、販売台数増を図る。
フォルクスワーゲングループジャパン(VGJ、マティアス・シェーパース社長、愛知県豊橋市)も、フォルクスワーゲン(VW)やアウディで新型車の投入を計画している。アウディブランドでは「Q4イートロン」、VWブランドでは量産EV「ID.」シリーズを年内に発売する。プレミアム、量販のそれぞれで商品を強化し、EV市場でのシェアを高める。
ステランティスジャパン(ポンタス・ヘグストロム社長、東京都港区)は、フィアットのEV、500eでハッチバックのほか、カブリオレモデルも用意し、多様化するユーザーニーズに応える。販売方法でもリース販売をメインとした戦略に切り替え、ユーザーが抱くEV所有に対する不安感の払しょくを狙う。
国内メーカーも、EVの投入に本腰を入れる。日産は三菱自動車と共同開発する軽自動車の新型EVを発売する。トヨタ自動車は「bZ4X」、スバルは「ソルテラ」をそれぞれ年内に発売する予定だ。トヨタのbZ4Xはサブスクリプション(定額利用)サービス「KINTO(キント)」限定で販売する。売り切りとしないことで、電池劣化による下取り価格低下を懸念するユーザーの不安を取り除く。
EV市場では不安材料もある。半導体不足や部品調達難などのサプライチェーン(供給網)の混乱により生産が遅れ、新車販売に影響が出ている。EVにおいても同様に影響が出ている。
日産は「アリア」のうち、販売店で注文できる一部モデルの発売を5月12日に延期すると発表した。当初は3月下旬の発売を予定していた。発売が遅れることについて販売現場からは「(本当に)予定通り納車できるか心配」(東日本の販売会社関係者)といった戸惑いの声も聞かれる。
海外メーカーも同じく供給網の混乱による影響を受けている。ステランティスのフィアット500eの導入は昨年中を予定していたが、半導体不足の影響などで今年の発売となった。半導体不足の影響は今後も続くとみられる。
登録車市場に占めるEVの割合は1%未満と、EVはまだまだ成長の余地が大きい。半導体不足などの影響は懸念されるものの、各社の積極的な商品投入によって車種が増えることで、今後のEV市場の成長が期待される。
(織部 泰)
※日刊自動車新聞2022年(令和4年)4月9日号より