2024年度から電気自動車(EV)向け普通充電器を対象とする国の補助金が、これまでの申請順から審査制で交付する仕組みに変わる。23年度は申請競争が過熱したが、公平性の高い制度になることで「業界全体にとって大きなプラス」(テラチャージの徳重徹社長)と前向きに捉えている充電サービス事業者が多い。また、高出力型に有利な「キロワット当たりの申請額(円/㌔㍗)」が低い順に補助金を交付する要件も盛り込まれ、利便性の高い充電器設置が進む可能性がある。この大きな制度変更を成長につなげられるか、充電各社の地力が問われている。
国は24年度も、23年度の「予備分」で実施した充電インフラの補助要件厳格化を引き継ぐことを決定している。3月中旬に始まる「23年度追加分」を皮切りに、3回に分けて補助金申請を受け付ける。エネチェンジの城口洋平社長は「審査を複数回に分けるように国に要望し、それが受け入れられた」と評価する。
23年度の普通充電器の補助金は、申請受け付け開始から約2カ月で締め切られた。設置計画が具体化する前でも、まず補助金の枠だけを確保しようと、各事業者の申請が殺到したためだ。これにより、予算が早期に枯渇。この反省から、追加した予備分で要件を厳しくした経緯がある。事業者側も補助金申請に振り回されたところもあり、テラチャージの徳重社長は「業務を平準化しやすくなり、業界全体の働きやすさ改善にもつながる」と、新たな仕組みを歓迎している。
また、充電効率の高い機器の普及を後押ししそうだ。普通充電器は出力が3㌔㍗と6㌔㍗のタイプが主流となっている。当然、出力が低い方が機器や工事費も安い。しかし、どちらも補助金の上限が同額のため、収益を見込める3㌔㍗を優先的に設置している事業者もいた。ただ、24年度は出力が高いものから補助金を受け取りやすい仕組みに変わる。エネチェンジの城口社長は「(外出先など)目的地充電の場合、出力3㌔㍗では使いものにならない」としている。交付順の変更で高出力型の普通充電器の設置が拡大すれば、ユーザーのメリットにつながるのは間違いない。
今後の課題の1つは、充電設備の稼働率だ。ある事業者の幹部は「補助金を使って設置したものの、実際には使われていないケースが珍しくない」と漏らす。こうした実態について、国も把握しているとみられ、城口社長は「年後半に充電器の稼働率が補助要件に追加される可能性もある」とみている。こうなれば、「補助金を受けられなくなる事業者も出てくるのでは」とも予測しており、各社はこれまで以上に多くの利用が見込める設置計画の立案が必要になりそうだ。
(舩山 知彦)
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)3月11日号より