政府は8日に閣議決定した経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)と「新しい資本主義」の実行計画で、自動車産業のグリーントランスフォーメーション(GX)実現に向けて、合成燃料の内燃機関への利用を見据えた電動車普及戦略を進めることを明記した。与党協議を踏まえて原案を修正した。資源・エネルギーの安全保障と脱炭素の取り組みを加速させる中で、日本の自動車産業が持つ強みを生かした官民連携の「日本流カーボンニュートラル」の道を進む姿勢を鮮明にした。
先月31日に政府が示した原案では「2035年までに乗用車の新車販売を電動車100%とするなどの目標に向け」との記述から始まっていたが、冒頭に「将来の合成燃料の内燃機関への利用も見据え」の表現を追加した。電動車には電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、ハイブリッド車(HV)を含むことも改めて記述した。
カーボンニュートラル実現に向けては、ガソリンエンジン車の販売を規制する政策を打ち出す国・地域もあるなどそのスタンスはさまざまだ。そうした中、今後の電動車の普及戦略として内燃機関の利用を骨太の方針などの原案に加えたのは、「日本の自動車産業の強みを最大限に生かすべきだとの与党からの指摘を反映したからだ」と政府関係者は修正の経緯をこう説明した。
産業界では、日本自動車工業会の豊田章男会長がこれまで、記者会見などを通じて「敵は炭素であり、内燃機関ではない。1つの技術にこだわるのではなく、すでに持っている技術を活用していくべきだ」と繰り返し訴えていた。またEVやHVなど「電動車をフルラインアップで持っていることが日本の強み」であることも強調してきたことだ。
自民党関係者は「日本の自動車産業が強い内燃機関を守ることが国益にもつながる」と述べ、雇用の維持においても重要であると説く。ある自動車メーカーの役員は「内燃機関をベースにカーボンニュートラルへの貢献ができる世界が確実に残されている。この研究の実用化の火は灯し続けないといけない」と訴える。
国際エネルギー機関(IEA)が17年に発表した見通しによると、40年時点でも世界の乗用車販売の約8割をエンジン搭載車が占めると予想されている。カーボンニュートラル実現には、エンジン搭載車に供給する脱炭素燃料が重要となってくる。その一つが、二酸化炭素(CO2)と水素から製造する合成燃料だ。ガソリンスタンド(給油所)業界でも、早期実用化への期待が高まる注目の燃料である。
政府は、グリーンイノベーション基金を活用して、企業などが取り組む合成燃料の製造技術開発を支援し、40年の商用化を目指している。自民党関係者からは、実現時期を前倒しするべきだとの声も挙がっている。骨太の方針では、今後10年間に官民協調で150兆円規模のGX投資を目指すことを示した。GX経済移行債(仮称)など5つの新たな政策イニシアティブを盛り込んだ今後10年のロードマップを年内に取りまとめる方針だ。
※日刊自動車新聞2022年(令和4年)6月9日号より