整備専門学校で外国人留学生専用の学科やコースを設ける動きが相次いでいる。5年ほど前から増え始め、現在は半数近くの学校にまで広がった。開設した学校の多くが学習期間を通常よりも1年長い3年課程とし、学費も安めに設定している。留学生にとって日本語の習得と学費支払いというハードルは高く、専用学科の存在が留学生の学びやすさにつながっている。国内の少子高齢化は今後さらに進むことが見込まれており、多くの留学生を受け入れて整備士に育てることはますます重要になる。2024年春も複数の整備学校が留学生専用学科の新設や定員の大幅な拡大を予定しており、こうした動きは当面続きそうだ。
「留学生学科をつくる前は教員も学生も本当に大変だった」―。21年度に専用学科を開設した日産・自動車大学校の本廣好枝学長は、かつての苦労を明かす。日本語に不安のある留学生を2年間で国家二級自動車整備士試験の合格にまで導くのは容易ではなく、教員にとっても日本人と留学生が混在するクラスで教えることは「理解度に大きな差があり、授業もしづらかった」(本廣学長)という。専用学科は留学生のみで授業を受けられるため、知識のばらつきが少なく、学生と教員の双方に利点がある。1年目は日本語と整備の基礎を学び、2年目から本格的に整備技術を学習している。
多くの学校は専用学科の学費を他学科の8割程度に抑えている。留学生はアルバイトのできる時間に上限がある。コロナ禍の影響で母国に暮らす家族からの仕送りやバイト収入が減少したため、学費の支払い停滞に追い込まれるケースもあったという。日産自大の本廣学長は「学費を払えないことが留学生の退学理由で最も多い」とし、「年間の学費が100万円を超えると支払いのハードルが高くなる」と明かす。
専用学科のメリットが明らかとなるにつれて、開設に踏み切る整備学校が増え始めた。学校関係者が「インパクトが大きかった」と振り返るのは、ホンダテクニカルカレッジ関西(五月女浩校長、大阪府大阪狭山市)の動きだ。同校は18年度に「自動車整備留学生科」を設置。ベトナム出身者から多数の応募があり、定員も増やした。同校の成功に刺激を受けて開設を決めた学校もあったという。
新設ラッシュは24年春も続く見込みだ。越生自動車大学校(市川剛士校長、埼玉県越生町)は、「グローバルエンジニア科」を開設する。市川校長は「就職先で日本人とともに長期間働けるよう、日本ならではのコミュニケーション文化も伝えたい」と意気込む。国際テクニカルデザイン・自動車専門学校(渡邉吉一校長、栃木県小山市)も、「国際自動車整備学科」を新設する。
定員の大幅拡大も相次ぐ。トヨタ神戸自動車大学校(鈴木二郎校長、神戸市西区)は24年度、「国際自動車整備科」の定員を80人から計110人に増やす。定員規模は国内有数となる。23年度のオープンキャンパスは留学生の参加人数が前年の3倍以上となっており、鈴木校長は「日本で整備を学び働きたい人は多い」と手応えを示す。日産京都自動車大学校(川嶋則生校長、京都府久御山町)も「国際自動車整備科」を「国際オートメカニック科」に改称し、定員を40人から80人に倍増する。全5学科の中で留学生専用学科が最大定員となる。
整備士不足が深刻化する中、企業側も外国人の受け入れに前向きな姿勢を強めている。トヨタ神戸自大の国際自動車整備科では、24年春の卒業予定者全員がトヨタ自動車の系列販売会社に就職する予定だ。企業奨学金の支給対象を留学生にも広げる会社が増えているといい、鈴木校長は「就職先の確保が見通せることも定員拡大につながった」と声を弾ませる。日本人の若者人口がさらに減少する見込みの中、整備士の成り手をいかに確保するかは業界にとって喫緊の課題。各校は「人手不足でクルマの整備ができなくなる状況を防ぐためにも、留学生が安心して学べる環境を整備し、一人でも多くの整備士を送り出したい」(日産自大の本廣学長)考えだ。
(諸岡 俊彦)
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)11月06日号より