整備業界が電気自動車(EV)の対応に本腰を入れ始めている。EV整備では特有の点検項目や作業方法、安全確保などが求められてくる。新興EVメーカーが林立する中で、想定よりも早く整備依頼が舞い込む可能性もある。車両技術の高度化も日々進んでおり、今後の急速なEV普及に向けた対策を整備団体などが打っている。
EV対応に早期から取り組むBSサミット事業協同組合(磯部君男理事長)はこれまで、組合員にEVの基本構造や作業者の絶縁保護、具体的な作業方法などを解説したDVDを配布するなど体制づくりを図ってきた。今後はさらに一歩進めて、変化が加速する自動車技術の高度化に合わせた対応に乗り出す。
具体的には「ドイツ車体車両技術中央連合(ZKF)」を通じて、高電圧の駆動用電池を搭載しているEVに対応した整備工場を視察するなど、EV普及で先行する海外市場の情報を取り入れる。EV整備における作業者の安全性を確保するとともに、対応可能な整備ネットワークの構築を目指す。
EVは、内燃機関車と比べて部品点数が減ることから点検箇所が減少すると言われる。こうした中で、日本自動車整備振興会連合会(日整連、竹林武一会長)は、23年度事業の「新たな整備料金の項目の研究」で、EVなどクリーンエネルギー車(CEV)の新たな点検・整備項目の構築を進めている。車両の安全・安心の確保に向けた予防点検・整備の項目などを想定。車両のEV化で整備単価の減少などが予想されるものの、車両の安全を確保する中で、整備事業者が作業内容や労力に見合った適正な料金を請求できるようにする。
一方、車体整備では日本自動車車体整備協同組合連合会(日車協連、小倉龍一会長)が、24年度以降の車体整備士向け「高度化車体整備技能講習」で、EVをテーマにしたプログラムを検討している。車両のEV化で車体下部に駆動用電池が搭載されることにより、骨格構造の変化や素材の多様化を見込んでいる。技能講習では、EVの構造などの基礎的な内容をはじめ、修理技法の変化なども共有する考えだ。
他方で、日本自動車車体補修協会(JARWA、吉野一代表理事)は車体補修関連の工業会として、新興EVメーカーのアフターサービス体制の構築支援を図っている。7月に、協会内に新興メーカー4社と自動車流通関連企業による「新興EVメーカー連絡協議委員会」を立ち上げた。新興EVメーカーは自前の整備工場ネットワークを持たないケースが多い。ただ、車両を市場投入する上で、自社車両に対応可能な整備工場は必要不可欠。そのため、アフターサービス体制の構築を新興各社の共通課題に位置付け、メーカーとユーザー、整備工場の「三方よし」となる体制づくりを支援する。
新型車はディーラーのメンテナンスパックなどの囲い込み施策で、独立系整備工場への入庫台数が増えるのは3年目以降と言われている。ただ、日本市場に新規参入するメーカーや企業の中には、独立系工場を活用するケースも増えており、早期からEVに触れられる絶好の機会にもなっている。独立系を含めて多くの整備事業者では、今からEV対応を進めておく必要がありそうだ。
(村上 貴規)
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)8月26日号より