日本の自動車部品メーカーが中国戦略の練り直しを迫られている。主要納入先である外資系自動車メーカーが苦戦しているうえ、短期開発や値引きなど従来の〝常識〟が通用しにくいからだ。約300社ともいわれる地場系メーカーは玉石混交で、代金回収や製造物責任などのリスクもある。〝ハイリスク・ハイリターン〟の3千万台市場とどう向き合うか、各社は模索のまっただ中だ。
「中国はドル箱だったが、今では最も厳しい市場になった」。ミツバの北田勝義社長はこう話す。過去の中国では日米欧の外資勢が現地資本と組み、グローバル車を中国向けに改良して生産・販売してきた。しかし、政府の産業政策により新エネルギー車(NEV)メーカーが乱立し、激しい生存競争を繰り広げる。NEVに出遅れた外資勢は値引き合戦にも巻き込まれ、収益が急速に悪化。三菱自動車は撤退した。
ミツバの場合、日系メーカー向けの供給を軸とする同社の広州拠点は稼働率が5割近くまで落ち、派遣社員やアルバイトを減らして凌ぐ一方、比亜迪(BYD)や吉利汽車(ジーリー)に小型モーターなどの提案を始めた。「技術的アドバンテージはある。今から接点をつくっておけば、例えばブラジルなど当社の工場があるところに(BYDなどが)進出した際、チャンスがあるのでは」と北田社長は期待をかける。
eアクスルで攻勢をかけるジヤトコも、BYDなどへの営業を始めた。佐藤朋由社長兼CEO(最高経営責任者)は「中国で展開するには現地で開発し、つくって売るを基本とする必要がある」と言う。即断即決の地場系メーカーはリードタイムが短く、開発から量産までの期間が日系メーカーの半分の場合もある。TPRは、分散していた中国内の研究開発機能を集約し、現地企業と合弁で「技術センター」も設立した。小鵬汽車やBYDと取引する小糸製作所、ジーリーの新型車にブレーキ部品が採用された曙ブレーキ工業なども開発の現地化を進めている。
ただ、地場系メーカーとの取引にはリスクもある。典型例が納入価格だ。生存競争のまっただ中にある地場系メーカーは値引き要請も激しく、品質との折り合いをどうつけるか悩ましい。シートベルトなどの問い合わせが増えてきたという芦森工業は「安全性や品質に対する認識がどこまであるのかを見極める必要がある。仮に事故があった場合、(部品会社の)責任問題になる」と慎重な姿勢だ。マブチモーターも「価格の要求が厳しいため、(新興EVメーカー向けは)追いかけない」と早くも距離を置く。
住友理工の清水和志社長は「EVメーカーがたくさんあり、半数か何割か潰れるとも言われている。そこを見極めながらだ」と話す。前触れもなく事業停止や破産になると売掛金を回収できない。与信調査を徹底し、場合によっては手形以外の決済を求めるなどリスク回避に目配りする。
中国汽車工業協会によると、2023年の中国新車販売は前年比12%増の約3009万台と初めて3千万の大台を超えた。このうちNEVは949万5千台と4割弱を占める。企業によって中国市場の捉え方はさまざまだが、今や世界一のEV市場になったその存在感は無視できない。さらに人、モノ、カネを投じて中国の流儀を〝手の内化〟するか、東南アジア諸国連合(ASEAN)やインドなど他市場に事業の軸足を移していくか、部品各社の経営判断が注目されそうだ。
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)3月7日号より