日米両政府は28日、電気自動車(EV)のバッテリー生産に不可欠な重要鉱物のサプライチェーン(供給網)強化に関する協定を結んだ。日本で加工した「重要鉱物」をバッテリーに使ったEVを北米で組み立てれば、米国の「インフレ抑制法(IRA)」で規定する税額控除を受けられる見通しだ。日本自動車工業会は29日、歓迎するコメントを出した。
協定で定めた重要鉱物は、コバルト、グラファイト、リチウム、マンガン、ニッケルの5鉱物。採取から精練、加工に至るサプライチェーンの「貿易」「環境」「労働」に関する日米間の協力を強化する。これらの重要鉱物に関し、輸出関税を課さないことなどを日米で合意した。協定はまた、サプライチェーンのあらゆる段階で「トレーサビリティーと透明性の重要性」を挙げており、強制労働や不正な取引などに関する情報も共有していく。協定は2年ごとに見直す。
この協定は、中国を念頭に経済安全保障を強化する側面も強い。急速に増えるEV需要に対応するためにも、バッテリーの生産に不可欠な重要鉱物のサプライチェーンを強靭化することは日米両国ともに課題だ。ただ、重要鉱物の採取や製錬では中国が高いシェアを握っている。
協定文書に特定の国名は示していないが、「重要鉱物の貿易に影響を及ぼすような非締約国による非市場的政策や、慣行に対処するための効果的で適切な国内的措置の可能性」(外務省)が日米間の協議を踏まえた上であることを記載した。中国を念頭に置いていることは明白だ。
この協定に基づき、日本は米国のIRA上で「自由貿易協定(FTA)締結国相当」として認められる見通し。これにより、コバルトを用いた正極材など、日本で採取・加工した重要鉱物を一定割合で含むバッテリーを搭載した北米製EVは税額控除の適用対象となる。IRA上の「加工」は、精練以降の焼成や塗布などの工程を含む。
2022年8月に成立したIRAは、プラグインハイブリッド車(PHV)と燃料電池自動車(FCV)を含む車両の最終組み立てが北米域内であることが条件だ。その上で①バッテリー部品の一定割合を北米域内で製造・組立②バッテリーに含まれる重要鉱物の一定割合を米国、同国のFTA締結国で採取・加工―を要件とした。それぞれの要件に3750㌦(約50万円)の税額控除枠を設けており、両要件を満たせば、1台当たり7500㌦(約100万円)の税額控除が受けられる。
西村康稔経済産業相は28日、「持続可能で公平なサプライチェーンの確保に向けた協力の強化を通じ、日米や同志国との連携による強靭なサプライチェーンの構築を目指す」と語った。自工会は「同盟国である日米両国間の協力関係が維持・強化されることを歓迎する」とのコメントを豊田章男会長名で出した。
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)3月30日号より