日本自動車車体整備協同組合連合会(日車協連、小倉龍一会長)が、大手損害保険各社に団体協約の締結に向けた交渉に入る。修理費の算出に使う「指数対応単価」について2022年度実績から15%以上の引き上げを求める。「企業物価指数」などを参考にしたものだが、損保各社は原則的に「消費者物価指数」(CPI)を基準に考えており、要望が受け入れられるかどうかは不透明だ。
最大の争点は「何のデータを基に交渉するべきか」ということだ。損保各社は「指数対応単価」についてCPIを基準に考えてきた。「自動車の修理費はあくまでユーザーが負担するもので、企業間取引ではないことから一般的な財・サービスの価格推移を示すCPIを用いるのが妥当」という考え方だ。
過去にCPIが下がったときも、整備業者に配慮して「指数対応単価」を下げなかった、という自負もある。
また「保険会社と整備工場は直接の契約はないため企業間取引ではない」という考えもある。保険を使った修理については、修理工場と自動車を持つ保険契約者との間で契約が結ばれているからだ。
ただ、実態はそう単純ではない。自動車保険料は消費者が払うものだが、保険を使った修理の場合、実際には整備業者と保険会社のやりとりで完結するケースもある。都内の50代の会社員男性は「この20年間、何度か事故で修理に出したが、すべて保険会社とディーラーでのやりとりで終わっている。口座のお金の出入りもない」と話す。
大手損保の中でも、消費者物価指数が基本としつつも「整備業界の経営状況や社会情勢等を踏まえて考える」「ほかに判断材料がないかどうか検討課題になっている」という声も出ている。
もう一つの焦点は、「指数対応単価」の決め方だ。
原則的には損保と整備事業者が1対1で話しあって決めることになっているが、小規模の整備事業者の中には「意見を聞き入れてもらえない」との不満もある。損保側は「年間に何度も取引のあるところは丁寧に話し合っており、(取引が)少ないところは入庫があった時に単価について話し合う」という。「単価を一方的に通知するようなことはない」としている。
今後、この交渉に影響をあたえそうなのがビッグモーター問題や、金融庁が集計中の「実態調査」だ。全国の整備業者約4千を対象に6月に質問票が配られ、7月末に締め切った。「今年度の単価について損保と『協定』したか」や、昨年度からの引き上げ幅実績など6項目について聞いている。結果次第では、損保側が譲歩しなくてはならなくなる可能性もある。
また、損保各社は自動車保険金の不正請求があったビッグモーター(和泉伸二社長、東京都港区)との関係と、大手企業向けの共同保険をめぐる「事前価格調整」の二つについて、金融庁から報告徴求命令を受けている。大手のビッグモーターについて、事故査定が甘かったことが浮き彫りになれば、一般整備業者向けの「正論」を貫き通すのが難しくなる可能性がある。
また、大手企業向け共同保険についても「価格調整」が常態化し、利益を確保していたことが明らかになることも考えられる。
大手損保各社の24年3月期決算は、海外事業などが好調で過去最高益を見込んでいる。
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)8月24日号より