少子高齢化などを背景に人材不足が深刻な課題となっている自動車整備士の確保・育成について、国土交通省が業界団体などと連携して中長期的な視点での取り組みに乗り出す。電動化、コネクテッド、自動運転など自動車技術の進展に伴って整備知識・技術の高度化が進む中、自動車整備士の役割はますます重要となることから、それらに対応できる人材を官民協働で育成・確保することが必要だ。

国交省は、有識者や業界関係者で構成する「自動車整備の高度化に対応する人材確保に係る検討ワーキンググループ(WG)」を設置し、今年6月に初会合を開いた。同WGで自動車整備業に必要な人材の確保や整備士などの育成のための対策を取りまとめ、今年度内に一定の結論を出す予定だ。
国交省ではこれまでも、自動車整備士の確保策などの検討や施策を展開してきたが、「人材不足の状況は変わらない」(整備専業者)のが実情だ。自動車大学校・整備専門学校の入学者数減や自動車整備士の高齢化も進んでおり、人材不足を解消する決め手が見つからない状況は今も続いている。こうしたことから、国交省は自動車整備士の人材確保・育成策を見直してテコ入れする必要があると判断した。
同WGでは「自動車整備業に必要な人材の確保」と「自動車整備士などの能力向上」について官民連携で検討する。まずは、それぞれの現状や課題を整理した上で、短期・中長期に実施する取り組みを議論・決定する。関係者ごとに担うべき役割と活動内容を明確にし、官民全体で計画的・効果的な取り組みを推進する。
中長期的な取り組みの一環として検討を進めるのが、自動車大学校・整備専門学校の入学者数の増加策だ。国交省や業界団体などではこれまで、自動車整備士の魅力や重要性を訴求するための高校訪問などを実施してきたが、活動の幅を広げる必要もありそうだ。自動車販売会社の中には訪問先として工業高校だけでなく普通科の高校にも足を運んで会社説明会を行う事例もある。
自動車販売会社や整備事業者にとって自動車整備士の人材確保は〝競争領域〟だが、将来の自動車整備士を目指す若者や子どもたちを育む活動については官民全体で取り組むべき〝協調領域〟だけに、それぞれの地域事情を踏まえた活動の方向性と内容を改めて模索する必要がありそうだ。
一方で、少子化の波は今後もさらに厳しくなることから、同WGは離職中の有資格者の復職支援を検討内容として議論を進め、今後の新たな取り組みとして実施したい考えだ。また、人材確保に関しては、未経験者や外国人の採用について検討を行う。職場の定着率向上に向けた課題の整理と効果的な対策なども議論する。
自動車整備の高度化に対応するための人材育成としては、自動車大学校・整備専門学校の卒業生や復職者に対するリカレント教育のあり方などを検討する。現役自動車整備士のスキルアップ策も議論する。
国交省では、同WGなどを通じて自動車整備士の人材確保・育成に向けた新たな取り組みを検討していく一方で、自動車整備士資格制度と養成課程の見直しを進めてきた。5月25日に公布した「自動車整備士技能検定規則の一部を改正する省令」がそれで、電気・電子系学科卒の学生を対象に受験に必要な実務経験年数を他の学科卒の学生より半年短縮する要件を即適用した。コネクテッド機能や電子制御装置が数多く搭載された自動車の普及拡大に対応する狙いだ。
今回の見直しは資格体系と試験関係を中心に行った。各クラスの自動車整備士には知識だけでなく技能も一定レベルを求めることとした。新制度での一級と二級、電気装置や車体の整備士には、電子制御装置に係る知識などを有することを求める。また、一級、二級、三級の自動車整備士は二輪車の知識も必要となる。一級自動車整備士資格の学科試験では口述試験を廃止する。新たな自動車整備士資格制度は2027年1月に導入する予定だ。新制度に基づく試験の実施も同年1月以降とする。
自動車整備要員の平均年齢は20年度に45.7歳に達した。少子化などで自動車整備士を目指す若者は減少し、自動車大学校・整備専門学校の入学者数はピーク時と比べて半減した。電動化など自動車技術の進展に伴い自動車整備士に求められる整備知識・技術が増える中、教育現場では実習など現行の教育時間では余裕がないなどの声が上がる。今後は資格制度の見直しとともに、教育現場の実情と課題を改めて把握した上で、学生が十分な知識・技術水準を満たして卒業できる教育環境に整備し直す必要もありそうだ。
※日刊自動車新聞2022年(令和4年)8月20日号より