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自動車業界トピックス

深刻化する整備士不足、職業能力開発機関は求人あっても志願者減少

対象者の掘り起こしに注力

整備士の人手不足が深刻化する中、国家二級自動車整備士の養成課程がある職業能力開発機関にも多くの求人が寄せられている。一方、入試の倍率は低下傾向にあるほか、入学者の中退率の上昇も課題となっている。優秀な整備士を1人でも多く輩出するため、各機関は募集活動のターゲットを拡大して志願者の掘り起こしを図るなど、工夫を凝らしている。

ディーラーなどから講師を招いた教育も行う

「東は東北、西は関西まで、あちこちのディーラーから求人が届く」―。東京都立城東職業能力開発センター江戸川校(江戸川区)の烏山智行指導員は、求人の多さに声を弾ませる。修了生の就職率は例年100%で、ほぼ全員が都内のディーラーに入社している。整備士の不足感が高まる中、最近は販売各社も年齢にこだわらず採用する傾向が強まっており、「30代半ばの修了生が採用されたケースもある」という。

修了生に対する整備事業者側の期待が大きい一方、足元では入試倍率の低下が目立つ。山梨県立峡南高等技術専門校(富士川町)の自動車整備科で、訓練生を指導する勝上誠訓練課長は「2016年ごろまでは2倍を超えていたが、最近は高い年で1.5倍程度」としている。同校は17年度に1学年の定員を20人から25人に増やしたが、「志願者は想定していたほど増えなかった」という。城東職業能力開発センター江戸川校の烏山指導員も「平成の初めころは3~5倍程度の倍率だったが、現在は1倍を割り込む年もある」と厳しい現状を明かす。

さらに、中退率の上昇に頭を悩ませる機関も多い。城東職業能力開発センター江戸川校では、ここ数年、入学者の4割程度が中退しているという。かつては訓練生の約9割が修了したが、応募倍率の低迷につれて修了率も低下傾向にあり、「受け入れた以上、1人も取りこぼしたくないが、なかなか難しい」(烏山指導員)のが実情だ。

各校とも、入学者のほとんどは20歳前後の若者だ。高校教員の中には、職業能力開発機関に整備科があることを知らないケースも少なくないため、各校の校長や教員が積極的に高校を訪問し、PRに努めている。東京都立多摩職業能力開発センター八王子校(八王子市)はここ最近、通信制や定時制高校への情報発信に力を入れている。高校生の学習スタイルが多様化し、通信制の学校の人気が高まっている状況に対応する狙いがある。入校者に占める通信制高校の出身者の割合も上昇するなど成果が出ている。同校は神奈川県に近いこともあり、都内だけでなく神奈川の高校に対するアプローチも強化することで、入学者を増やす考えだ。

教育の充実にも力を注ぐ。城東職業能力開発センター江戸川校では、ディーラーや自動車メーカーから講師を招き、電気自動車(EV)などの構造について学習する機会を設けている。教員3人で訓練生約30人を指導する体制をとっており、一人ひとりに寄り添った指導を重視している。

また、職業能力開発機関には学費の安さという魅力もある。訓練費用は教科書代や作業服代を含め2年間で30万円程度。家庭の収入状況によっては、授業料免除などの制度もある。一方、整備専門学校の授業料は年間100万円程度のケースが多く、家庭の経済的事情から進学が厳しい生徒もいる。多摩職業能力開発センター八王子校の長崎純一校長は「さまざまな高校生が居る中、セーフティーネット(安全網)としての役割も果たしていきたい」と強調している。

(諸岡 俊彦)

※日刊自動車新聞2023年(令和5年)4月3日号より