自動車整備士不足が年を追うごとに深刻化する中、外国人技能実習生や自動車整備専門学校の外国人留学生などの外国人を積極的に受け入れている新車ディーラーや整備専業店などが少なくない。これに伴い、日本人整備士とは異なる外国人整備士独自の社員教育に取り組んでいる企業が増えている。神奈川トヨタ(安藤栄一社長)は、外国人整備士の社員教育を行う担当者が日本語教師の資格を取得し、整備技術の習得とともに、日本語でのコミュニケーションや日本文化などを学ぶ時間を設けている。
同社は2021年から外国人整備士を本格的に採用し始め、22年には34人、23年に28人、今年は52人が入社した。「外国人に対する社員教育では言葉の壁や、コミュニケーション不足を解決することが最重要課題で、この課題を解決できれば、離職を防ぐことができる」(原田丈晴人材開発部部長)と、日本語を正しく理解してもらい、日本語でのやり取りを習得することに注力している。
日本語教師の資格を習得したのは同社の浅沼宏教育研修室室長だ。「外国人向けの研修を行う中で、日本語教育が問題点として見えた。社内で教育のノウハウがないので外部に依頼するか、独自に教育方法を習得するか検討した」ことがきっかけとなり、「自分の会社のことを働く社員に社員の言葉で伝えることが重要だ」(浅沼室長)と考え、資格の勉強をはじめ、23年に取得。現在、外国人整備士に対する教育を担当している。
外国人整備士向けの新入社員教育は、「読む・書く・話す」の日本語の基本から漢字の読み書きなどをはじめ、生活やマナーの違い、コミュニケーションを学ぶ日本文化研修を行う。また、専門学校で学んだ知識や技術を現場の仕事で生かすための自動車基礎研修や、コンプライアンスやハラスメント、顧客応対などの業務を進める上での基礎知識を学ぶビジネス基礎研修も含め、4月から12月までの9カ月間実施する。さらに外国人の先輩社員との交流会を定期的に開催し、仕事への不安や悩みごとを相談するといったコミュニティー形成にも力を入れている。
同社は、今年3月1日付で22年に入社したスリランカ人の整備士を人材開発部に異動させる人事を行った。外国人社員の管理部門への登用は初のケースとなる。「整備技術はもちろんのこと、日本語や英語、母国語でのコミュニケーションを円滑に行うことができる」(原田部長)ことを生かし、外国人整備士の日本語教育と内定者に対して、悩みや困りごとの相談に乗るなど、入社までの内定者フォローを担当させるといった外国人社員への支援強化を図っている。
「外国人整備士向けのさまざまな施策が功を奏し、当社で働きたい外国人留学生が増えている」(原田部長)という。同社では今後、外国人整備士一人ひとりに合わせたキャリアプランを作成し、整備主任者や自動車検査員などの資格取得の支援や、家族に対する日本語支援にも取り組み、外国人整備士が安心して仕事に集中でき、長く会社に勤めてもらうための環境整備により一層取り組む考えだ。(横浜)
※日刊自動車新聞2024年(令和6年)5月23日号より