経済産業省は「半導体・デジタル産業戦略」を見直す。人工知能(AI)向け省エネルギー型半導体の開発を新たに盛り込むほか、蓄電池では製造装置メーカーなどへの支援を含め、国内産業基盤の強化に役立つ施策を加える。6月中旬にも改定版を公表し、政府の「骨太の方針」へ反映後、概算要求で2024年度から施策を具体化していく。
30日に開いた半導体・デジタル産業戦略検討会議で改定案を示した。同戦略を21年6月に初めてまとめてから2年が経過し、生成AIの登場や情報処理・通信技術の進化の方向性を踏まえ、経済安全保障や脱炭素の観点も踏まえて見直した。
同戦略では半導体、情報処理、高度情報処理、蓄電池などの分野ごとに戦略を立てているが、今回の改定では、各分野に共通する取り組みとして人材育成に力を入れる。半導体分野では、地域の特性に合わせた産学官連携による人材育成や、次世代半導体の設計・製造を担う高度人材の育成のあり方などを検討し、プロジェクトなどの具体化に落とし込む。
生成AI産業戦略が目指すべき方向性も新たに加えた。処理能力の向上に伴う電力消費が課題になっており、省エネ半導体などの開発を促し、早期の社会実装を目指す。技術革新のスピードや不確実性を踏まえ「市場原理を最大限尊重しながら支援スキームの具体化を図っていく」(経産省商務情報政策局)とする。
データセンターなどデジタルインフラの整備も急ぐ。AI・量子コンピューティングなどによる情報処理量の拡大や大規模自然災害への対応を踏まえ、東京圏や大阪圏に集中しているデータセンターを北海道や九州にも整備する。
蓄電池分野では今後、「上流資源」の確保に向けて、ユーザー企業など個別の権益確保も含めた官民連携体制の強化を検討する。人材育成プログラムの具体化も図り、24年度からバッテリー人材育成・確保の取り組みを本格的に行う計画だ。
半導体や高度情報処理技術などデジタル技術の活用は、自動車などものづくり産業の競争力の源泉で、世界の潮流に取り残されることは死活問題となりかねない。経産省は「我が国産業全体の真のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を実現する最後の機会」(同)と捉え、産業基盤の整備・確保を急ぐ。
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)5月31日号より