7年ぶりとなる政府の節電要請を受け、自動車メーカーが対策に動き始めた。省エネルギー活動の徹底に加え、自家発電設備の活用や、電力需要の少ない夜間操業などを検討する。今のところは従来対策の徹底や強化にとどまっているが、想定外の猛暑や厳冬など、場合によっては東日本大震災後のような稼働シフトなどを迫られる可能性もある。
全国規模の節電要請は2015年以来、7年ぶりだ。3月の宮城・福島沖地震での一部火力発電所の損傷による供給力低下や、老朽化した火力発電設備の休止、テレワークの定着に伴う家庭の電力消費増加などが背景にある。東京や中部、東北電力の各管内で供給余力を示す予備率は3.1%(7月)と、安定供給の目安とされる3%ギリギリだ。猛暑や発電所のトラブルなど想定外の事態が起きれば停電もあり得る。
トヨタ自動車は、日頃から製造装置に動力を使わない「からくり」を活用するなど省エネ活動を徹底している。バッテリーフォークリフトの夜間充電や、各種設備の利用時間の重複抑制などをさらに徹底し、電力消費を抑える。同社広報部は「夏に向けて電力ひっ迫が懸念されるが、一層、取り組みを強化する」と話した。神奈川に本社や主要工場を持つ三菱ふそうトラック・バスは、川崎製作所(川崎市中原区)で2019年に運用を開始した「ガスエンジンコージェネレーションシステム」や太陽光発電システムなどを活用する。スズキも従来の節電対策をまずは徹底する考えだ。
スバルは、節電要請期間中に本社(東京都渋谷区)のエレベーターホールや廊下など共用部分の照明を3分の2程度に抑える。今年3月の「電力需給ひっ迫警報」を契機とした取り組みだ。群馬県にある主要工場については「具体的な要請が来たタイミングで対応を検討したい」(同社広報部)とした。
マツダが主要工場を持つ中国電力の予備率(7月)は3.8%と比較的、余裕がある。同社はこれまでも夏季の電力需要を抑えるため、一部生産設備の稼働を昼間から夜間に切り替えるなどしてきた。同社メディアリレーション部は「引き続き節電対策を行っていきたい」とする。
政府は今回、一律の節電目標値は定めていない。ただ、今冬の需給見通しはさらに厳しく、10年に1度の厳冬を想定した需要に対し、東京、中部、中国、九州など電力7社の管内で来年1~2月は予備率が3%を切り、12年度以降で最も危機的な予測となった。政府としては、事前の情報提供や、電気事業法に基づく「使用制限令」など需要側の対策とともに、休止している発電所の再稼働、再生可能エネルギーや原子力発電のフル活用など供給側の対策も急ぐ考え。
東日本大震災後、自動車メーカーは7月から土日を稼働日とし、木金を休日とする稼働シフトを実施した。今回も供給力が高まらず、猛暑などに見舞われた場合は生産活動に支障が出る可能性もある。
※日刊自動車新聞2022年(令和4年)6月10日号より