半導体不足による自動車の生産調整が長引いていることを受けて、国内自動車各社が半導体のサプライチェーンを見直す動きが本格化している。自動車各社は半導体不足を受けて生産機種を変更するなどして生産影響の最小化を図ってきた。先進技術の進化や、電動化などを背景に車載半導体の搭載数の増加が見込まる中、今後も半導体の調達が経営のリスクになると判断、サプライチェーンを見直す。二次部品メーカー以下を含めて、使用している半導体の情報を管理するシステムの構築や在庫水準の引き上げ、さらに契約内容の改定など、リスクを織り込んだ調達体制に見直すが、これらによってコストアップは避けられない見通し。
日系乗用車メーカー7社が発表した4~6月期業績では、2社が通期の販売計画を下方修正した。東南アジアでの新型コロナウイルス感染拡大に加え、半導体不足の影響が期初の見通しより悪化、ホンダは15万台、スバルが4万台をそれぞれ下方修正した。
全体の販売計画を据え置いた自動車メーカーでも三菱自動車は半導体不足による4~9月期の減産影響について期初と比べて1万3千台増となる9万3千台とした。スズキは国内に加え、主力市場であるインドをはじめとする海外でも半導体不足によって通期で10万台の影響が出る見通し。半導体の出荷量は増えているものの、発注量がさらに増えている。「市場全体の問題のため、正常化のめどはたたない」(マツダ・藤本哲也常務執行役員)との認識で一致する。半導体不足の問題が長期化する中、半導体のサプライチェーンを見直す動きが本格化している。
スズキは直接取引のある一次部品メーカー以外も含めて、サプライヤーが保有する半導体の情報を可視化するシステムを構築。「毛細血管」(スズキ・長尾正彦取締役専務役員)まで半導体の動向を追いかけることで、トラブルが発生した際の対応力を高める。
自動車製造業では、必要な部品を、必要な時に必要な量だけ調達する「ジャスト・イン・タイム」による効率的な生産が競争力の源泉なだけに、部品の在庫を極力持たないことを原則としてきた。半導体不足の問題で在庫不足が自動車生産に深刻な影響を与えることが浮き彫りになったことから、半導体の在庫水準を増やす動きもある。
マツダは数年単位で契約することで調達を安定化する長期契約を半導体メーカーと検討している。このほか、発注した半導体をキャンセルしない契約を結ぶ動きもあるという。
ただ、これら在庫水準や契約の見直しによって半導体に関するコストは上昇する。ただでさえ半導体需要急増で販売価格が上昇している。先進運転支援技術の普及や電気自動車(EV)の拡大などで、今後も車載半導体の搭載数は増加することが見込まれる。安定的に半導体を調達することが自動車メーカーの業績を大きく左右するだけに、自動車各社は半導体の調達戦略を本格的に模索することになる。
※日刊自動車新聞2021年(令和3年)8月18日号より