自動車メーカー各社が、意欲的な電気自動車(EV)の投入計画を打ち出している。世界的なカーボンニュートラルに向けた機運の高まりや各国での環境規制の強化を受け、EVのラインアップ拡充や導入時期を前倒しする動きも出ている。一方、自動車のライフサイクル全体で見た場合の二酸化炭素(CO2)排出量を踏まえた上で、地域ごとに最適な電動化を進めていくことや、キーコンポーネントである車載電池の安定調達も重要となる。
自動車メーカーがEVシフトの姿勢を鮮明に示す背景には、グローバルで脱炭素化の流れが加速し、政府も環境規制を強化していることが挙げられる。欧州のCO2排出規制は段階的に強化され、乗用車を対象とした30年の燃費規制は21年比で37.5%削減する野心的な燃費基準を策定。中国の新エネルギー車(NEV)規制は全販売台数に占めるNEVの比率が19年の10%から20年には12%へと引き上げられ、一定の販売が義務化されている。こうした規制の厳格化などを背景に自動車メーカーもEVの投入を加速する。
EVを軸とした戦略へと舵を切ったフォルクスワーゲン(VW)は、新開発の専用プラットフォーム「MEB」を「ID.3」を皮切りに適用を拡大。25年には年間150万台のEVを生産する体制を整え、グループでは50車種を投入してラインアップを広げる。また、30年には欧州販売の7割以上をEVにする方針だ。ゼネラル・モーターズ(GM)は25年までに世界でEVの新型車30車種を投入する。さらに35年までにすべての乗用車を電動車両にして、バッテリー開発や生産能力の増強に向けた投資も拡大する。
ボルボ・カーは30年までにEVメーカーになることを宣言し、ハイブリッド車(HV)を含む内燃機関を搭載した車の販売を全世界で段階的に廃止する。これまでも25年までに世界販売の50%をEV化、残りをHVとする方針を掲げていたが、長期的な成長に向けEVへの移行を加速する。
日本の自動車メーカーも電動車のラインアップ拡充に動く。トヨタ自動車は、中国・上海市の上海モーターショーで、EVの新シリーズ「bZ(ビーズィー)」を発表するとともに、25年までに、同シリーズを含め15車種のEVをグローバルに展開する計画を公表した。ホンダも同ショーで5年以内にホンダブランドのEV10車種を中国に投入すると発表。「ホンダSUVe:プロトタイプ」をベースにしたSUVを第1弾モデルとして来春に発売する。
EVの普及に当たっては、電動車の重要部品である車載電池の安定調達が鍵を握る。トヨタはパナソニックやCATL、BYDなど提携先を拡大。ホンダもCATLに出資し、電池開発の強化と電池の安定確保につなげる。GMも米国内でバッテリー工場への投資を拡大し、サプライチェーンを構築する。
また、単に車両をEVにするだけではカーボンニュートラルの実現は難しい。資源の調達から製造、廃棄にいたるまでライフサイクルアセスメント(LCA)の視点でCO2排出抑制を進めることが重要となる。各国・地域の電源構成などを踏まえた上で、ニーズに合った選択肢を提供することが求められる。
※日刊自動車新聞2021年(令和3年)4月24日号より