新型コロナウイルスの感染が拡大する中、国内自動車メーカーの従業員に相次いで感染が確認されている。ものづくりの現場で働く人は多いが、在宅で勤務ができないため、生産現場で人と人の接触機会を減らすのは難しい。経済活動の停滞による新車需要低迷や、サプライチェーン(部品供給網)の問題から国内生産拠点の工場も一時停止しているものの、今後の工場の対応に頭を抱えている。
いすゞ自動車は10日に藤沢工場(神奈川県藤沢市)の製造部門に勤務する30代男性社員と40代男性社員の2人が新型コロナウイルスに感染していたことが確認された。同社では6日にも藤沢工場の製造系の30代男性社員1人の感染が確認されている。いすゞでは、工場のある神奈川県で緊急事態宣言が発令されているのに加え、10日に感染者が確認されたことを受けて13日から17日までの5日間、藤沢工場の稼働を停止して、広範囲に消毒作業を実施することにした。
就業人口の多い自動車メーカーの国内事業所で感染者が相次いで見つかっている。トヨタ自動車は高岡工場(愛知県豊田市)の製造系に勤務する20代男性1人と、この感染者と同じラインの対面で工程作業していた20代男性1人、元町工場(愛知県豊田市)の製造系の20代男性従業員1人で感染を確認。トヨタ自動車九州の宮田工場(福岡県宮若市)でも製造系の30代男性1人、11日には豊田市本社地区の事務系職場に常駐勤務していた30代の協力会社社員1人が感染していたことを確認した。
日産自動車では、日産自動車九州(福岡県苅田町)の製造工程勤務の従業員1人、グローバル本社(横浜市西区)に勤務している従業員1人が感染。ホンダは埼玉県朝霞市の事業所に勤務する従業員1人、栃木県芳賀郡の事業所に勤務する従業員1人の感染が確認された。
国内の自動車メーカーの就業者で感染者が最初に確認されたのは日野自動車で、3月14日に本社(東京都日野市)に勤務する従業員2人が感染していたことが確認され、その後、各社でも感染者の確認が相次いだ。アイシン精機や住友ゴム工業など、部品メーカーの従業員でも感染者が確認されている。
東京商工リサーチによると9日時点で従業員などに新型コロナウイルス感染者が出たことを公表した上場企業は159社。
感染拡大防止に向けて政府は緊急事態宣言を発令した7都府県(東京、神奈川、千葉、埼玉、大阪、兵庫、福岡)で、職場への出勤者を7割減らすことを要請した。対象となる地域には完成車や部品の製造拠点が多数ある。しかし、ものづくりの現場では出勤しないわけにはいかない。工場では、出社前の体調確認、出社時の消毒、手洗い・うがい・マスク着用や咳エチケットの徹底などを実施しており、生産ラインで感染者が確認された場合、消毒や濃厚接触者の特定と検査、自宅待機など、感染防止対策を実施している。しかし、就業人口が多い自動車関連の製造部門で人と人の接触機会を減らすのは難しい。
世界的な新車需要低迷やサプライチェーンに支障が出ていることで、メーカー各社は国内の生産拠点を一時停止しているものの、生産停止が長期化すると業績悪化は避けられない。緊急事態宣言が発令され、国内の感染者が拡大する中、従業員の健康を確保しながら、工場をどう操業していくのか、各社とも難しい判断を迫られそうだ。