世界の自動車各社の電気自動車(EV)シフトの本格化に伴って需要の急拡大が見込まれる車載電池に必要な天然資源についてSDGs(持続可能な開発目標)を重視して安定的に確保しようという動きが広がってきた。フォルクスワーゲン(VW)グループとダイムラーは、BASFやスマートフォン(スマホ)を開発する蘭フェアフォンと、チリの持続可能なリチウム採掘計画に資金提供を決めた。車載電池の材料はレアメタル(希少金属)が多く、生産地域も偏在している。電動化へと舵を切る自動車メーカーは持続的な成長に向けて川上分野での調達にも気を配る。
世界的なカーボンニュートラル社会の実現に向けた動きを受けて、リチウムイオン電池に使用される資源の争奪戦になることが懸念されている。一部の産油国では、レアメタルを確保するため、新規開発プロジェクトを推進して国家レベルで権益獲得に動いている。一方で、資源採掘では、過酷な労働や環境破壊、資源枯渇など、さまざまな問題が浮き彫りになっている。
VWとダイムラーは2020年、チリで環境に配慮したリチウム採掘に向けた地上調査を開始した。チリにあるアタカマ塩湖は、世界のリチウム供給の4分の1を担っている。ダイムラーは、地球温暖化対策に関する国際的な枠組み「パリ協定」にコミットすると表明しており、資源開発における労働や環境対策に目を光らせる。
今年6月、VWとダイムラーの取り組みに、車載用電池材料を手がける世界最大の素材メーカーであるBASFと、スマホメーカーのフェアフォンも加わり、4社でアタカマ塩湖で持続可能なリチウム採掘に向けたパートナーシップ契約を結んだ。今後、政府や資源会社などと連携して持続可能な資源開発に関する共通ビジョンを策定するとともに、4社が関連プロジェクトなどに対して資金面で援助する構えだ。
協業は今春にスタートしており、当面2年半実施する。リチウムの権益獲得などは目的とせず、あくまでSDGsに沿って、労働者の人権を保護して生態系に悪影響を及ばさないよう持続的、安定的に資源を調達できる枠組みを作る。
リチウムイオン電池の主要部材である正極材に使用されるコバルトは、アフリカのコンゴが世界の産出量の6割を占めている。しかし、コンゴのコバルト鉱山では過酷な労働環境で多くの児童が長時間働かされており、人権侵害が大きな問題となっている。テスラやゼネラル・モーターズ(GM)とLG化学、パナソニックがコバルトフリーの車載用電池を開発しているのは、このためだ。
自動車メーカーが販売するモデルを電動化して、二酸化炭素(CO2)排出量を削減することはSDGsに沿った取り組みとなるが、例えば電動車両に搭載した電池にコンゴ産のコバルトが大量に使われていた場合、SDGsに取り組んでいると言えなくなる。株式市場ではSDGsに積極的に取り組んでいる企業だけに投資する動きも目立つ。自動車メーカーは電動車を開発・販売するだけでなく、資源などの川上分野にも配慮した取り組みが求められる。
※日刊自動車新聞2021年(令和3年)6月19日号より